P社員控室

パナソニック70年の自営無線の歴史が「プライベートLTEネットワーク」に新たな命を吹き込む

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載「87会議室」。今回のテーマは、「プライベートLTE」です。

労働人口の減少や高齢化が進むいま、これまで以上にICTを活用して自動化や省人化による生産性向上、業務効率化が求められています。そこで行われているのが、様々なセンサーや機械、ロボットと連携して人間の作業を補完し、代替する取組みです。それを実現するためには現場の様々な要望に対して柔軟に構築できる無線ネットワークが欠かせません。

その解決策として注目されているのが、自治体や企業が独自にLTEの無線ネットワークを構築できる「プライベートLTE」。大手通信キャリアでなくても、携帯電話で用いられているLTEと同様のネットワークを限られた範囲で利用できるようにするものです。一般的な通信キャリアとは別の回線となるため、非常時に混み合わずに使用できたり、SIMカードを利用した認証のため高いセキュリティ性を確保できたり、といった利点があります。

今回ご紹介する「プライベートLTEネットワーク」は、パナソニックがこれまで培った無線技術を活かすと共に、専用SIMカードの発行によって高セキュリティを実現した自営LTEシステムです。通信デバイスとの連携により、IoT(モノのインターネット)への活用が期待されています。

「プライベートLTEネットワークシステム」によって、どんな未来が実現するのか。また、その未来はどんな歴史に支えられているのか。パナソニックシステムソリューションズジャパン社 パブリックシステム事業本部の山口武測に話を聞きました。
(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者

山口 武測(やまぐち たけのり)

パナソニックシステムソリューションズジャパン(株)
パブリックシステム事業本部 マーケティング部 P-LTE課
2010年入社。学生時代より無線通信関連の研究を専攻。入社後は無線機の高周波回路設計、自治体向け防災行政無線システムの営業を経験。2017年より、プライベートLTEに携わる。

「プライベートLTE」と「Wi-Fi」はなにが違うのか?

今回のテーマは「プライベートLTE」とのことですが、この「LTE」というのは携帯電話のCMなどで見かけるあの「LTE」のことでしょうか?

そうです。大手携帯キャリアによる通信回線と同じように、パナソニックが独自でLTEの無線ネットワークを構築していきます。新しく基地局を設置するので、携帯電話の電波が届かないところでも、LTE網を使ってデータ送受信が行えるようになります。

パナソニックさんが大手キャリアと同様の電波を飛ばす、ということですよね。携帯の基地局なんて勝手に建てちゃって大丈夫なんですか……?

勝手に建てるわけじゃないです(笑)。確かに、最近までLTE用の周波数帯は、携帯キャリアしか扱えなかったんです。しかし電波法関連の省令が改正されたことで、パナソニックのような大手キャリア以外の事業者でもLTE網を作れるようになりました。

安心しました。ではパナソニックのLTEを使うときは、専用のオリジナル携帯を使う……?

いや、基本的にはプライベートLTEに対応したスマートフォンであれば使えます。プライベートLTE専用のSIMカードを入れていただければ。

なるほど……。あれ、でもそれって結局、Wi-Fiと一緒じゃないですか? どちらも「一部の人がアクセスできるネットワーク」ですし、電波が届かないところにWi-Fiルーターを置けば、基地局を建てるなんて面倒なことをしなくてもいいのでは?

確かに、屋内とか狭いエリアで移動しないで簡単に使うのであれば、Wi-Fiの方が適している場合もあります。敷設に無線免許はいらないですし、誰でも気軽に使えますからね。ただWi-Fiは無線免許が不要なぶん、電波の出力に限りがあり、エリアが狭いんですよ。Wi-Fiスポットから少し離れるだけで、もう通信できないですよね。

ああ、わかります! 街なかで弱々しいWi-Fiを拾っちゃったり……。

一方でLTEは広範囲で通信が可能です。環境条件にもよりますが、プライベートLTEとして使える2.5GHz帯の基地局ひとつで2~3キロメートルはカバーできます。そんな電波を誰もが飛ばすようになったら大変なので、取り扱いに無線免許が必要なんです。

それだけの範囲をWi-Fiでカバーするのは確かに厳しそうですね。

あとは、ユーザーが複数の基地局間を移動しても、ハンドオーバーという仕組みにより通信が途切れないのも特長のひとつです。いまのスマホは4GのLTE回線を使っていますから、車や電車で移動している最中でも途切れずに電話やネットができますよね。Wi-Fiもアクセスポイントをたくさん設置すればシステムとしてのカバーエリアは広がりますが、アクセスポイント間を移動するときに通信が途切れてしまうこともあります。プライベートLTEではWi-Fiと同じような小出力の1.9GHz帯の基地局も利用することができますが、ハンドオーバーが上手にできるのでたくさん基地局を設置してその間を移動しても途切れることはありません。

言われてみれば確かに。移動を前提に作られているか否かが異なるんですね。

携帯電話は全国ほとんどの地域をLTEでカバーしていますが、離島や山間部には圏外の地域がありますし、建屋内や地下構内など電波が届かない場所もあります。そこでLTEネットワークを独自に設けることで、安定した通信環境を広い範囲に提供することができるんです。

IoTや高セキュリティに対応したネットワークは、農業や教育にも

一般的な携帯電話のLTEが使えない離島や山間部で、プライベートLTEが必要なのはなんとなくイメージできるんですが、他にはどんな用途があるんですか?

一例をご紹介しますと、ICT利活用先進自治体である北海道の岩見沢市では、スマート農業の実現に取り組んでいます。通信環境を設けてトラクターの無人走行に活用したり……。

あ! 『下町ロケット』で見ました!

それです! まさに、下町ロケットの題材になったと言われているのが岩見沢市です。

佃製作所が数々の苦難の末にトランスミッション用のバルブを完成させたんですよね……!

そうなんですが、ドラマから一旦離れていただいて……。

失礼しました。

北海道の農場は広大かつ人がほとんど住んでいないような場所もあるので、携帯キャリアのLTEでカバーされていないエリアも一部あります。しかし、トラクターの無人走行にはそのようなところでも問題なく通信できる環境が必要、ということでプライベートLTE(高度化方式地域BWA※)基盤の構築を当社が担当させていただきました。他にも、防災用途などの各種自治体サービスの提供が計画されていて、パナソニックがプライベートLTEシステムを提供させていただいております。

※高度化方式地域BWA(Broadband Wireless Access)システム
2.5GHz帯の周波数の電波を使用し、地域の公共サービスの向上やデジタル・ディバイド(条件不利地域)の解消等、地域の公共の福祉の増進に寄与することを目的とした電気通信業務用の無線システム。

なるほど。人と人との通信をイメージしていましたが、もはや通信する相手は人じゃないんですね。通話じゃなくてIoTであると。

おっしゃる通りです。むしろ、それこそがプライベートLTEの真の使い方になると思います。もちろん、通信環境が整ったエリアでIoT機器を大手通信キャリアのLTE回線を用いて動かすことも可能ではあります。しかしそこで通信量が増えてしまうと、通信したぶんだけお金がかかってしまうことになり……。

スマホでいう「ギガが足りない!」みたいな状態になってしまうんですね。

先ほど専用のSIMカードを使うという話がありましたが、基板に組み込むチップ型のSIMもあるんですよ。ロボットなどのデバイスにSIMを組み込めば、LTEを介して遠隔操作も可能になります。通信ネットワークからデバイスまで手がけられるのは、パナソニックの強みのひとつですね。

SIMカードってそんなに簡単に作れるんですか?

いやいや、これが大変なんですよ。SIM発行ベンダーの事業者資格を得てSIMカードを発行するには、セキュリティをかなり高めなくてはいけません。社内で誰がSIM発行に必要な情報を知っているのか、私も知らないくらいです。

そんなに厳重に管理されているんですね。

SIM発行の業務も細分化されていて、誰がどんな役割を担っているかはごく一部の人しか知りません。重要な作業の1つである認証キーの作成に関わる業務を担当している方はどうやら3人ほどいるようなんですが……。

もはや噂レベルじゃないですか。要するに、それくらいセキュリティが高いんだと。

そうですね。SIMカードと認証キーによる高セキュリティも、プライベートLTEのメリットのひとつです。セキュリティの問題からWi-Fiを扱えないお客様が導入されるケースもありますね。自治体の庁舎内など、個人情報を扱う場合は特に気にされるようです。教育や医療といった利用も想定していますので、セキュリティはますます重要になるかと思います。

『君の名は。』にも登場!? 70年の歴史を持つパナソニックの自営無線

そういえば先ほど「基地局を建てる」という話がありましたが、基地局を建てる場所ってどうやって決めるんですか? 大規模なので、Wi-Fiルータみたいに「ここ電波入りづらいな」と簡単に動かしたり増やしたりできませんよね。

そうですね。ここはとにかく、事前のシミュレーションです。地形や建造物の情報を取り込んで、現地での測定結果も踏まえながらエリアの設計を行っていくんです。

実際に現地に行ってみたら想像と違った、なんていうことも?

あります。それこそ、先ほどの岩見沢市は雪の影響がありました。雪かきによってできた高い雪の壁の影響でカバーエリアが少し狭まっているということもありました。地形や建物の密集度によってはかなり詳細な設計が必要になりますので、現地での測定結果も踏まえて最適化を行っていきます。

天気や地形によっても影響が出てしまうんですね。そうした無線に関するノウハウは、パナソニックには元々あったんでしょうか?

パナソニックは自営無線に70年の歴史があるんです。国内の防災無線(広報無線)第1号機を作ったのはパナソニックですし、防災無線は現在国内シェアトップ(※)なんです。映画『君の名は。』にも、パナソニックの防災無線(戸別受信機)が登場するシーンがあるんですよ。
(※ 自社調べ)

そうなんですか!? 詳しくは言えませんが、冒頭のシーンのあれですか……?

あれです。あの無線機がパナソニック製なんですよ。噂を聞いて、みんなで映画館に確認しに行きましたね。「本当は電池がもっともつのに……」と言う人もいましたが……。最新型の戸別受信機は168時間(1週間)使えるのですが……。

防災無線機ですからね。まぁ、お話の都合上いろいろありますので……。

あとは昭和25年に日本で初めて国産によるFM移動無線機を開発し、警察無線用として納入したのもパナソニックです。タクシー無線などで使用されている業務用無線も最初に開発したのはパナソニックです。MCA無線といって、グループで通話できるのが特長ですね。

確かにタクシー無線って知らないおじさんたちの声がいっぱい聞こえます。あれはグループLINEみたいなものなんですね。

他にはETCのゲートにもパナソニックの無線技術が用いられていますし、ITS(高度道路交通システム)も「道路の交通量を検出したい」と国から要請を受けて作られたものだと聞いています。

なんかもう、世の中の無線という無線がみんなパナソニックから始まっているような気がしてきました。

みんなは言い過ぎですが(笑)。パナソニックは70年の無線事業の歴史がある、ということを知っていただけると嬉しいですね。

時代が変わって、周波数や通信方式が変わったとしても、過去のノウハウがプライベートLTEに活かせるということでしょうか。

そうですね。要素技術としては本社研究所と連携しているので、お客様の現場に合わせた無線システムを提供するという70年の無線事業で培ったソリューションのノウハウを活かしながら、新たな技術で生まれる価値をお客様へのお役立ちにつなげていきたいと考えています。

アプリケーションについてもモバイルのWeb会議システムや画像解析によるインフラ点検などパナソニックは様々なアプリがありますので、それらとプライベートLTEネットワークを組み合わせることで新たな価値が生み出せるようになると思います。

これまでの環境をアップデートしながら、通信の未来を担う5Gへ

これから先、プライベートLTEを使うことでどのようなことが実現するのでしょうか?

ひとつは、エネルギー・プラント現場などでの業務効率化です。ある程度広いエリアを有している場所で、セキュリティ性が高く、災害時にも輻輳がなく安定して利用できる無線通信ネットワークが求められています。

エリアが広くて、高いセキュリティ性と安定性が求められる、まさにプライベートLTEが適している現場ですね。

プライベートLTEを使うことで、例えば今まで点検作業の際に二人一組となって紙に記録していたものが、タブレットを使って点検結果を入力することで、一人でもできるようになったり、点検作業をデジタル化することでベテラン社員の技能を若手社員に効率的に伝承したりすることができるようになります。映像伝送を通じて遠隔地からの作業支援を受けることも可能になります。

ベテランの技能伝承もプライベートLTEが役立つことができるのですね。先ほどの防災無線にもプライベートLTEは使われるのでしょうか?

将来的には防災情報システムの高度化としてプライベートLTEと組み合わせて使うことも検討しています。いま日本で使われている防災無線は、周波数制度の関係上、多くがまだ2Gなんです。

確か、いまの携帯電話が4Gですよね。ひとつ前が3Gでしたから、2Gというのはさらにその前の……?

そうです。2世代前の通信規格なので、音声を送るのが精一杯なんですね。画像を送ろうとするとものすごく時間がかかります。スマホで撮って送ったほうが早いんですが、そのスマホすら災害時に使えるかはわかりません。

でも、自治体によってはライブカメラが設置されていたりしますよね。

防災無線とは別に、カメラ用の無線回線を設けることもありますし、複数のシステムを組み合わせて、ひとつの防災システムを作っている自治体もあります。ただ、複数のシステムを導入すれば単純に費用がかかりますし、管理も複雑になります。これらをひとつにまとめてLTE回線でまかなうようになれば、十分なデータ量を保ちつつ、コスト低減や効率化につながります。

「移動基地局」みたいなものもできそうですね。サーバと基地局を車に積んで、一時的に通信エリアを作ったりとか。

そうした要望もいただいていますね。災害時のみならず、ダムなどの工事現場で一時的に使いたい、という声もありますね。

お話をうかがっていると、ひとくちに「LTEによる通信網」といっても用途が本当に多種多様ですよね。

そうですね。LTEという仕組みを売って終わりではなく、LTEを使ってどんなサービスが提供できるのか、いまはそのモデル作りに取り組んでいるところです。来年度には大手キャリア以外でも局所的に5Gネットワークを構築できる「ローカル5G」が本格的に始まりますので、こちらも展開したいな、と。

ちなみに、5Gになるとこれまで構築した4GのLTEの設備はどうなるんですか? 全部取り替えることに……?

いえ、理論的にはいまの仕組みを流用できるんです。制御する部分を4G、データを流す部分を5Gと分けることができるので、制御用としてLTEの設備を活用できます。あとは5Gという次世代通信方式によってできることの幅が広がるので、それをどう使うか、ですね。

ローカル5Gでは、どんな用途が考えられますか?

エネルギー・プラントの現場では構内に貨物列車が走っている場合があります。今は人が乗って運転作業をしていますが、5Gの低遅延の特徴を活かして遠隔からのリアルタイム制御やセンサと連携した自動運転による効率化に活用できるか検討を進めています。

まだまだパナソニックの自営無線の歴史は続きそうですね。

私自身、BtoBの無線に携わりたくてパナソニックに入社したんです。パナソニックが無線を通じて世の中に貢献してきた歴史を知って、自分もその一人になれたらなと。プライベートLTEを通じて新たな分野に触れ、より多くのお客さまに貢献できたら嬉しいですね。