P社員控室

ビジネスマンは一人で一拠点 ビデオ会議システム「HDコム」は、どこにいても人と人とが働く空間を安定性と臨場感で作る

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載「87会議室」。今回のテーマは、ビデオ会議システム「HDコム」です。

働き方改革が進められる中で、在宅勤務やモバイルワークなど、場所と時間にとらわれない新たなワークスタイルが模索されるようになりました。かつて本社や支社といった企業の拠点同士をつないでいたテレビ会議(※1)は、いまやそれぞれの場所で働く社員個人と会社とをつなぐ手段となり、そのニーズはますます高まりを見せています。

※1:ビデオ会議システムおよびWeb会議システムを用いて、離れた場所にいる人同士で行う会議のこと

そこで活用されているのが、自宅や出張先等の各種ネットワーク環境から利用できる、Skypeに代表されるさまざまな種類の「Web会議」システムです。離れた場所でも対面しているかのように会話ができるのは便利ですが、接続するパソコンのスペックや通信環境によって会議上でのコミュニケーションが阻害されては元も子もありません。多人数でのディスカッションや意志決定を行う場面には、より高い品質や安定性を持つ会議システムが求められます。

2009年に発表されたビデオ会議システム「HDコム」は、パナソニックがAV技術で培った高画質・高音質を強みに、お客様の声を聞きながら常に進化してきました。かつて「臨場感システム」と呼ばれていた時代から、今や場所を「会議室」に限定せず、活用の幅が広げられています。

高画質・高音質のテレビ会議は、オフィスや現場にどのような効果をもたらすのか。「HDコム」開発の経緯や、さらに広がる用途について、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテインメント事業部の島津幹夫に話を聞きました。
(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者

島津 幹夫

1991年入社。本社研究所にて、生体信号処理やIPネットワークに関する研究開発に従事。その後は事業部に異動し、2010年より商品企画としてHDコム事業に携わる。現在は、マーケティングとプロモーションも担当。

一人ひとりが「テレビ会議の拠点」になる時代

「HDコム」はテレビ会議システムということですが、似た機能を持つものであれば、フリーで使える通話システムもたくさんありますよね。他のテレビ会議システムと比べてどのような特徴があるのでしょうか?

まずテレビ会議システムというものは、その仕組みから大きくわけて「Web会議」と「ビデオ会議」の2種類があります。クラウドのサーバ上でサービスを行う、ソフトウェアベースのものが「Web会議」ですね。こちらはネットに接続すればどこでも使えて、比較的安価に始められます。

「Skype」や「Zoom」などですね。

対して、ハードウェアベースのものが「ビデオ会議」。拠点ごとに本体を設置し、企業内ネットワークで使われることが多くて、HDコムがこれにあたります。HDコムはサーバを必要とせず、本体のみ導入いただければ、最大で24拠点をつないだ多地点テレビ会議が可能です。拠点すべてをつないだ場合は、画面分割して、1つのモニターに24拠点ぶんの映像が映し出されることになりますね。

画面分割のレイアウトは拠点数に応じて自動で設定されるが、手動で変更することも可能

画面の分割がほぼ『アタック25』じゃないですか。そこまでつなげたら、一人ひとりの映像がすごく小さくなりませんか?

そこで高画質・高音質であることに意味があるんです。「HDコム」は最大で1080/60p(※2)のフルHD映像で通信ができ、相手の表情の変化までリアルに伝わります。多地点とつないで画面をたくさん分割しても、誰が映っているかちゃんとわかりますよ。
※2:ピクセル密度が1920×1080、60fpsの映像のこと

そういうことですか。高画質のビデオ会議って言われても、大画面に映し出されたおじさんの肌がキレイに見えてもな……と思ってました。

確かに1対1で接続すれば、おじさんの顔だってくっきり見えると思いますが(笑)、高画質であることのメリットというのはそれだけじゃないよ、と。

ちなみに、出先からビデオ会議につなぐこともできるんですか?

できます。パソコンやタブレット、スマホで動作するアプリケーションも提供していますので。

でも、さすがにモバイル環境からビデオ会議に参加すれば画質が落ちますよね……。回線が混んでいたり、電波が不安定だったりしますし。

その問題をカバーするのが、HDコムの帯域推定機能(AVーQoS)です。通信回線の混み具合に合わせて通信量を最適な状態にコントロールするので、モバイル回線でも途切れることなく会議に参加できますよ。

回線の状態に合わせて、そのとき出せる最大限の力を出そう、というわけですか。

その通りです。回線が混雑しているのに高画質のデータを送り続ければデータが破棄されて映像が乱れてしまいますし、かといって最初から低画質で送信するのはもったいないですから。

なるほど。24拠点つながっても、安定して通信ができなければ意味がないですもんね。

ただ、その安定した通信のおかげで、お客様から「会議でつなげる拠点数をもっと増やしてほしい」という要望も多くありまして……。

え? 24拠点もつなげられたら十分だと思うのですが……。

本社や支社のほかに、在宅勤務やモバイルの利用も「1拠点」になるからなんです。昔は会社の拠点ごとにビデオ会議を導入すればよかったんですが……。

いまや社員一人ひとりのいる場所が「拠点」なんですね……!

そこで昨年、機能追加をしまして。HDコムの本体を2台3台とカスケード接続すれば、最大68拠点まで増やせるようになりました。

24拠点でもスゴいのに……。人間の欲望というのは果てしないですね。

「ただのテレビ会議じゃない」臨場感システムのこだわり

HDコムは当初から「高画質・高音質のテレビ会議システム」を目指して作られていたんでしょうか。

部分的にはそうですね。元をたどると、研究開発段階では「臨場感システム」と呼ばれていました。

臨場感システム?

2004年のことですね。当時の松下電器産業の研究部門で、「10年後の10大商品群」を考えるプロジェクトがあったんです。今後、大きな商品となるテーマの「タネ」を、10年かけて育てようと。そのうちのひとつが高画質・高音質で他拠点と映像付きで通話ができる「臨場感コミュニケーションシステム」でした。

昨年の「日本学生B to B新聞広告大賞」にて大賞を受賞したことがきっかけで作られた、販促用のクリアファイル。「モニター越しでも、部長は怖かった。」というフレーズがシステムの臨場感をうまく表現している

その当時、既に「テレビ会議」という仕組み自体はあったわけですよね……?

ありました。でも研究部門は「これはテレビ会議システムじゃない、臨場感コミュニケーションシステムなんだ」と違いを強調していましたね。

ただのテレビ会議と思ってもらっちゃ困ると。当時、すでに存在したテレビ会議システムとどう違っていたのでしょうか?

当時の他社製品はSD画質(※3)でしたから、より良い映像と音声で、それとは全然違うものを作るぞ、と。初期の臨場感コミュニケーションシステムは、大きなモニターを3台連結させて巨大な画面を作り、通信先の会議室がすぐ目の前にあるようなサイズで映像を出していましたから。
※3:一般的に、ピクセル密度720×480の画質のこと

まさに同じ空間にいるように……。

臨場感コミュニケーションシステムがある程度形になり、「HDコム」として商品化したのが2009年です。確かに研究部門のこだわりのおかげで映像と音声は格段に良いものができました。そのうえ、家電製品に使われているCPUを流用しているので、部品単価が安く済む。高画質・高音質を低価格で提供できたんですが……。

が……?

開発部門のこだわりが強すぎたんです。ビデオ会議の通信方式には統一規格があり、その規格に則って設計すれば他社製品ともつながります。しかし、1号機は接続方式を独自の形式にしてしまったために、「既に他社製品を使っている企業」に売りづらくなってしまって。

HDコムを導入するには、いま使っているテレビ会議システムをやめて、全部取り替えないといけない……。確かにそれはハードルが高いかもしれません。

私がHDコムに携わったのは2号機の商品企画からです。1号機に寄せられたお客様からの要望を、2号機にフィードバックしていきました。他社製品との接続性を見直したり、サイズをコンパクトにしたり……。「高画質・高音質」というこだわりを残したまま、とがりすぎた部分をならしていった感じですね(笑)。

使いやすさの追求は、この「とがりすぎている商品を、ならす」段階から始められたんでしょうか?

そうですね。お客様のなかにはパソコンを扱えない方もいらっしゃいますので、家電ライクな作りを心がけています。操作はPC上ではなくテレビのようなリモコンからですし、電源を入れてリモコンをちょっと操作すればつながります。会議が終わった後は、コンセントを抜けばゼロ秒でシャットダウンできます。

パソコンでやったら絶対おかしくなるやつじゃないですか。

お客様からは「壊れる心配なしに使える」と好評なんですよ(笑)

建築現場、自動車修理、高速道路点検……高品質だからこそ広がる用途

テレビ会議といえば会議室同士をつなげるのが一般的ですが、違う使い方をされている企業というのもあるのでしょうか?

就業時間中、ずっとテレビ会議をつなげたままにされているお客様がいらっしゃいますね。壁にかけた70,80インチくらいのパネルに離れた事務所のオフィスを映しっぱなしにして、なにか用事があったら画面越しに「○○さーん」と呼びかけて、カメラの前まで来てもらうそうです。

まさに「臨場感コミュニケーションシステム」そのままの使い方ですね!

オフィス以外では、2016年に「HDコムLive」という専用アプリケーションをリリースしています。アプリをインストールしたパナソニック製のAndroid端末とウェアラブルカメラを利用して、屋外の現場と別の場所を映像と音声でつなぐものです。

工場や建設現場のような、現場で行われている作業の様子を映像で配信して、会議室で確認できるってことですか?

そうです。映像を見ながら音声で指示したり、端末に資料を送ったりなど、離れた場所から現場の作業を支援することできます。

「HDコムLive」使い方の一例。音声と動画をシェアすることで、その場にいなくても技術者が現場の様子を確認できる(※画像クリックでYoutube動画にリンクします)

まさに「ひとりひとりが拠点」という考え方を、さらに進めたものですね。

他にも、建設現場の進捗状況を本社から確認したり、事務所にいるデザイナーが工場の担当者と商品を見ながら会話したり、既にさまざまなお客様に導入いただいています。

「そこの、もうちょっと右側を見せて!」みたいなやりとりがリアルタイムでできるんですね。写真だけでの確認には限界がありますから。

自動車メーカーさんの事例では、全国の修理工場と中央のテクニカルセンターを結んで、修理の支援を行っていますね。このときは「音をより忠実に再現してほしい」という要望をいただいたんですよ。

あれ? 音はもともと高音質だったのでは……?

元がテレビ会議向けの製品なので、人間の声の周波数帯域を重点的に拾っていて、それ以外の周波数帯はカットしていたんです。それを「音で不具合の原因がわかるので、雑音も含め車のエンジン音をそのままの形で聞かせてほしい」と。

もはや「遠く離れた人同士が話すもの」という次元じゃないんですね。思ってもみなかった用途も多いんじゃないですか?

展示会などでお客様と会話すると、「そんな使い方が」と驚かされることも多いですね。高速道路の路面を点検するために、時速100キロで走る車からセンターに映像を送って確認する、という事例もありますよ。

車載カメラからHDコムにつなげちゃうんですか!

山間部やトンネルなど通信が不安定になる箇所もありますが、先ほどご説明した帯域推定機能によって途切れずにクリアな映像を送れます。これも「臨場感システム」のこだわりの結果ですよね。

そうでした、ただのテレビ会議じゃないんでした。遠隔から現場の様子をきちんと確認できるのも、映像や音が高品質だからこそですもんね。

Web会議とビデオ会議の垣根をなくし、アイデア創出の空間づくりを

HDコムは「臨場感コミュニケーションシステム」から進化を続けてきたわけですが、今後どんな機能を追加していくのでしょうか。

2019年8月に「Webハイブリッドモード拡張キット」をリリースしました。このキットにより、Web会議システムとも双方向の音声コミュニケーションが可能になります。

え、Skypeともつながるようになるんですか!?

つながります。Web会議システムの市場はどんどん大きくなっていますし、既にビデオ会議を導入していても「Web会議も使っている」という企業も少なくありません。ただ、通信方式に規格があるビデオ会議と違って、Web会議はそれぞれが独自の方式で作っているので、方式が異なるWeb会議同士をつなげられないんですね。

独自に作ったから他とつながらない……どこかで聞いた話ですね……。

確かに……。このとがった部分も平たくならしてもらえたら、こちらも楽なのですが……。

「Webハイブリットモード拡張キット」は、HDコム本体とWeb会議用のパソコンを専用ケーブルでつなぐことで、HDコムの会議にWeb会議システムから参加できるようになる。(※画像クリックでYoutube動画にリンクします)

この機能って、Skype以外にはどんなWeb会議に対応してるんですか?

なんでも大丈夫ですよ。

いやいや、Web会議がそれぞれ独自に作っているのに、その全部に対応するのも大変でしょう?

この新機能のすごいところはですね、HDコムにつないだパソコンから「音だけ」を抜き出してビデオ会議システムに送るので、通信方式に依存しないことなんです。映像のやりとりはまだ先になりますが、音のやりとりさえできれば、どんなWeb会議システムでも参加できます。

なるほど……! ビデオ会議とWeb会議の「いいとこ取り」なんですね。最近は働き方改革によってテレワークの需要も増えてますし、「どこからでも簡単につながる」ということがより求められるでしょうね。

そうですね、HDコムにもWeb会議の接続性の良さを取り込んでいければと考えています。より将来的な話をしますと……会議ってなんのためにやるんだろう、と考えたりもするんです。

なんのため……? みんなで話し合って物事を決めるため、という感じでしょうか……。

それもありますが、コミュニケーションを通じて創造的なアイデアを生み出すのもまた、会議の大きな役割ですよね。まだテレビ会議って、開催前に参加者が構えてしまう部分があるじゃないですか。「今からつなげます」と言われるとなんか緊張しちゃう、みたいな。フラットな気持ちでブレストを行うには、それこそ「臨場感」が必要なのではないかと。

確かに、相手の顔が見えるテレビ会議だからこそ、雰囲気や空気感が会議にもたらす影響は大きいのかもしれませんね。臨場感を自在に操ることができたら「いつもと違う空間」だって生み出せるかも。

いつもと違う環境におかれると、新しいアイデアが生まれますしね。パナソニックでも、アイデア創出のための合宿で温泉宿に行って、検討会をすることがあるんですよ。HDコムで複数の地点の人たちをつないで、同じ温泉地で話しているような空間を提供する、なんていうこともできるかもしれません。

でもそうなったらそうなったで、「やっぱり温泉に行かないと調子でないな~」と言い出す人が……。

いるでしょうね(笑)。どうすればより臨場感を高めることができるのか、映像や音声のクオリティを追求する以外にできることはあるのか、まだまだ考えることがあります。お客様に喜んでいただくため、HDコムを進化させていければと思います。