P社員控室

「ステージ上の空気感をそのままオーディエンスに伝え一体感をつくりたい」プロオーディオ「RAMSA」が40年守り続けてきたもの

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載「87会議室」。今回のテーマは、プロ用音響システム「RAMSA」です。

RAMSAは「Research of Advanced Music Sound and Acoustics」の頭文字を取った、パナソニックのプロ用音響機器ブランド。「より進んだミュージックサウンドと機器の探求」という名の通り、原音に忠実な音の再現と高い信頼性をコンセプトに、多くの音響従事者(プロ)から支持を得てきました。

RAMSAが掲げるコンセプトを具現化する一つが、高い指向特性を持つ「ラインアレイスピーカー」です。会場のオーディエンスすべてに明瞭なサウンドを届けてきたその実績から、劇場/文化施設・スタジアム/アリーナ、また音楽やスポーツイベントなどに採用され、国内外問わず活躍の場を広げています。

2017年にはRAMSAにとって第3世代となるラインアレイスピーカーがリリースされました。その開発リーダーを担当したのが、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテイメント事業部の古賀淳一です。40周年を迎えたRAMSAのこれまでとこれから、そしてRAMSAに抱く思いについて、話を聞きました。
(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者

古賀 淳一

1999年入社。入社後は研究開発部門にて、音響設計技術の商品化に携わる。通信機器、ホームネットワーク機器開発を経て、2014年にRAMSA部隊へ異動。スピーカーの開発リーダーを勤め、2017年に第3世代となるラインアレイスピーカーを開発。現在は普及活動も務める。

いい音とは、「現場の空気感が伝わる音」のこと

自分は音響について素人なので、まずお聞きしたいんですが……。オーディオってそれぞれに「いい音」を目指すと思うんです。古賀さんにとって「いい音」って、どんな音なんでしょう。

いきなり難しい質問ですね……。私の感覚だと、究極は「生音」だと思うんです。マイクやスピーカーを通さない音。いきなりRAMSAと矛盾していますけど(笑)

確かに、本来は生の演奏をそのまま聴くのが一番ですもんね。

実は私、アマチュアのオーケストラに所属していて、トロンボーンを担当してるんです。ステージにいると、自分以外の演者の息づかいや、演奏の細かいニュアンスまでもが自分のところに届きます。それがお客さんに伝われば客席が盛り上がるし、演者のテンションも上がっていく。こうした演奏の空気感まで伝わるのが「いい音」なんじゃないかと。

そういった「空気感」は、やはり届けるのが難しいものですか。

残念ながら……。定期演奏会など、自分の演奏を録音して聞くことがあるんですが、空気感までは残らないんですよね。本番中に演奏を間違えてしまうこともあるのですが、誰かがミスをするとその不安が周囲の演奏者に連鎖していくのがオーケストラの中にいるとよく分かるんですよ。しかし録音だと、ミスをしたのは音でわかっても、その皆がドキドキしている雰囲気までは伝わりません。

なるほど。不安な空気は残らなくても良いかも知れませんが……。

演者の良し悪しはさておき、「生の音にどれだけ近づけられるか」というのは、音響メーカーにとってチャレンジになるわけです。そこでRAMSAは「原音への忠実さを追求」と「信頼性と音質の両立」という、2つのコンセプトを掲げています。このコンセプトはRAMSAが生まれた当時から脈々と引き継がれているんです。

そのRAMSAが、今年(2019年)で40周年を迎えたと聞きました。

そうですね。RAMSAのデビューは1979年8月、江ノ島で開催された野外ロックフェスティバル「Japan Jam」です。これがその時の写真です。

ステージの左右に大きな「RAMSA」のロゴが見えますね。スピーカーは……?

ロゴの下の、積み上げられている黒い箱が全てスピーカーです。

これが!? ちょっとしたマンションくらいの高さになってるじゃないですか!

当時は屋外で遠くまで音を飛ばすために、スピーカーを壁のように積み上げてとにかく大きな音を出す他に方法がなかったんです。力業ですよね……。

▲ 過去に使用されていたRAMSAのフライヤー。ステージからかなり後方まで観客がいたことがわかる

確かに……。でもこれだと、スピーカーの近くにいる人は音が大きすぎて大変なことになるんじゃないですか?

そうなんです。そこで登場したのが、1990年代に開発され、現在もRAMSAに欠かせないスピーカーシステムが「ラインアレイスピーカー」です。

大規模かつ屋外の音響で必要不可欠な「ラインアレイスピーカー」

ラインアレイスピーカー……とは、どんなスピーカーなんでしょうか。あまり聞いたことがなくて……。

こちらですね。野外ライブなんかで見覚えがありませんか?

あ! これですか。スピーカーがブドウみたいにつながってるやつですよね。

1つ78kgほどのスピーカーを重ねて設置しているんです。重ねることで指向性が非常に高くなり、狙った場所に音を届けることができます。

狙った場所に……? さっきの力業のパターンとはどう違うんでしょうか。

一般的なスピーカーは、1つの点から四方八方に音が広がっていくイメージです。この方式は「点音源」に似た振る舞いをしており、最初期の屋外コンサートで使われていたのもこのタイプのスピーカーですね。広い会場で使うと音が拡散してしまうので音源から離れたことによる減衰も早かったり、屋内だと天井や壁で跳ね返り、元の音と混ざり合ってしまったり……という弱点がありました。

お風呂の中で歌ったみたいな感じですね。

一方、ラインアレイスピーカーは「線音源」を目指したものです。音に指向性をもたせることで拡散を抑えた結果、反響が少なくクリアに聞こえます。距離による減衰も起きにくいので、遠くのほうまで音を飛ばすため、無理やり大音量にする必要が無いんです。

▲ スピーカーから発せられた音の減衰イメージ。点音源(上図)の場合、一点から放射状に音が飛んだ距離によって等しく減衰していくのに対し、線音源(下図)は音が上下に拡散せず、点音源よりも遠くまで届いている

なるほど……。ラインアレイスピーカーはもう実際にあちこちに導入されているわけですか。

RAMSAのラインアレイスピーカーは、地域の文化振興を促進するようなホールから、世界的なスポーツイベントをするような競技場まで、さまざまな施設に導入されています。RAMSAはマイク、ミキサー、アンプ、スピーカーまで含めたブランドなので、会場の規模によって導入する内容も多岐に渡ります。音の入口から出口までカバーし、高品質なサウンドを実現できるのもRAMSAの強みですね。

会場によって大きさも形も変わるでしょうから、音の聞こえかたや広がりなんかも変わってしまうんじゃないですか?

その通りです。特にラインアレイスピーカーは設置が難しいんですよ。角度が1度でも変わると聞こえかたが変わってしまうので……

それはもう、職人の経験と勘がないと設置できないのでは……。

さすがに経験と勘だけに頼るわけにいかないので、パナソニックでは専用のシミュレーションソフトも提供しています。ラインアレイスピーカーを吊る位置や角度によって、音がどう伝わるかが視覚的に確かめられるんです。

▲ シミュレーションソフトのイメージ図。使用しているスピーカーの種類だけでなく、会場のサイズや形状までを入力することで、より良いセッティングを検討できる

現場で設営する方の意見も聞くことはありますか?

もちろんありますよ。ラインアレイスピーカーにとって「現場での仕込みのしやすさ」も重要な要素ですからね。実際に試作品を設営してもらうと、「設営しやすいように取っ手を更に追加してほしい」「重すぎるので材質を軽くしてほしい」「吊り下げたままメンテナンスできるように」など、たくさんコメントをいただきます。それをひとつずつ解決していくんです。

実際に設営してみないと、取っ手のベストな位置なんてわからないですもんね……。

他にも耐震などの安全基準もクリアする必要がありますね。さまざまな角度からの検証を経て、ようやく世に製品が出るわけです。

「音が固い」「もっと艶っぽい音」という、スピーカーへのオーダー

先ほどオーケストラの話も出ましたが、古賀さん自身も以前から音響やオーディオに興味があったんですか。

私自身は熱心なオーディオマニアというわけではなくて……。どちらかというと楽器への興味があったんです。中学・高校とブラスバンドをやってましたし、大学は楽器の音響を学びたくて大学の音響設計学科を選びました。

その後パナソニックに入られたと。入社後はどんなお仕事をしていたんですか?

入社してしばらくは研究開発部門で、「エコーキャンセラ」の商品化に携わっていました。例えばスマホでハンズフリー通話するとき、スピーカーから出た声がまたマイクに入ったら、うるさくてしょうがないですよね? これを防ぐ仕組みがエコーキャンセラ。これを会議用のスピーカーホンとして商品化しまして……(写真を見せる)。

これですか! 似たようなものをよく会議室で見かけますね。

でも、これはそこまでヒットしなかったんですよ(苦笑)。このあとしばらく音響の世界から離れて、ソフト開発を中心に手がけていました。一方その頃、RAMSAはしばらく新規開発を中断していて、2014年に再び動き出したんです。そのタイミングでRAMSAへの異動を希望して、スピーカー開発に携わりました。

これまでオーケストラで楽器を演奏したり、大学で音響を学んだりしたとはいえ、「スピーカーの開発」はそれまでと全然違う仕事ですよね。戸惑いはありませんでしたか?

ありましたね。それまではソフト開発だったので、設計を重視する仕事でした。でもスピーカーって実際鳴っている音がナンボの世界なので、設計に加えて官能的な部分のウェイトもそれなりにありますね。

官能的というと……?

耳でどう感じるか、ということですね。設計したスピーカーの音をいろいろな人が聞いて、「ちょっと違う」とか「なんか音が固い」とか「もっと艶っぽくして」とか言うわけで……。

……なにをどう変えたらいいのか全然わからないです。

その人なりの音の好みと、表現があるんですよね(笑)。最初に手がけたスピーカー開発ではリーダー役だったのですが、いただいたコメントの意味を考えて、調整し直して、もう一回聞いてもらって……と、トライアンドエラーを繰り返しましたね。

それぞれ好き嫌いもあるでしょうし、同じ言葉でも受ける印象は違うでしょうし……。ひとつにまとめるのも大変そうです。

でも結局、最後は自分を信じるしかないんです。意見を聞きすぎてもなかなか集約できませんから。脈々と受け継がれてきた「原音忠実」というコンセプトを、自分なりにいかに実現するかということだと思っています。

泥臭くてアナログなスピーカーは、楽器と似ている

今後のRAMSAについて、古賀さんが課題だと感じられていることはありますか。

「原音忠実」がRAMSA誕生からの変わらぬコンセプトなわけですが、最近思うのは打ち込みやDTMの音をどう表現するかなんです。パソコン上で作られたような、そもそも原音が存在しない音を「原音忠実」に表現するのはなにがベストなのかと……。

これまではステージ上の演奏や空気感を忠実に再現するのが目的でしたからね。スピーカーが進化する一方で、音楽も進化しているわけですし……。

楽器の音や声なら原音に近づけるわけですが、サンプリングなどを駆使して音そのものを作っているわけですからね。そうなると、クリエイターがイメージする世界観を再現することが「原音忠実」になるのかなと思っています。

これから、RAMSAはどうなっていくのでしょうか。

RAMSAのラインナップをもっと増やしていきたいと思っています。私たちの思いを伝えるには、実際に音を聞いてもらうのが一番です。そのためにもより多くの製品を世に出していきたいなと。それと同時に、お客様と会話する機会も増やしていきたいですね。どんなニーズがあって、それをどう解決するかを考えていければなと。

古賀さんご自身の展望についてはいかがですか。

やはり音の「空気感」を伝えたい思いがあるので、その方法を探求してみたいですよね。私の担当はスピーカーですが、そもそも「空気感をどう録るのか」という地点から始めないといけない気もしているんです。それをやるなら、音の入口であるマイクの開発も自分で……となってしまうのが難しいところですが。

確かに、音の入口から出口までカバーしているのがRAMSAの強みでしたからね。出口であるスピーカーについても、これからますます磨いていかれるわけですか。

そうですね。このごろ「スピーカーと楽器って似ているな」と感じています。スピーカーは工業製品ですが、泥臭いというか、アナログなところがあって、ちょっと手を加えるとガラッと音が変わる。手をかければかけるほど音が良くなるのは、楽器と一緒なんだなと。

先ほどの「音の入口から出口」の話に当てはめれば、楽器は「入口」で、スピーカーは「出口」ですよね。相反する位置のものなのに、よく似た性質を見出だせるのは面白いですね。

あと大きな課題としては、次の世代にコンセプトを伝えていくことでしょうか。RAMSAは今年で40周年を迎えましたが、50年、100年と続けていきたいですから。RAMSAの火を絶やさないために、バトンを渡していければと思います。