P社員控室

「50メートル離れた鉄橋が1ミリ揺れるのを撮影します」現場の声から進化するインフラ点検サービス「Smart Image Sensing」

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載「87会議室」。今回のテーマは、インフラ点検サービス「Smart Image Sensing(スマートイメージセンシング)」です。

道路やトンネル、橋など、生活を支える構造物の多くはかつての高度成長期の時代に作られたもの。それが半世紀近くのあいだ、修繕を繰り返しながら使われ続けてきました。今後老朽化はさらに進み、点検や修繕など維持管理に必要なコストも増え続けると予想されています。

加えて、点検は多くの人手をかけた人海戦術で行われることが多く、少子高齢化に伴う労働人口の減少も深刻です。今後、熟練者の退職が増加することに伴い、技術継承ができずにいたり、高所作業などの経験不足から事故の危険性が増したりする場合もあるなど、想像以上に多くの課題が浮き彫りになっています。いっそ根本的に建て替えたい……といっても、さまざまな事情から簡単にいかないのが実情です。

こうした課題を解決するサービスとして、2017年に立ち上がったのがパナソニックの「Smart Image Sensing(スマート・イメージ・センシング)」。画像解析やロボティクスなど、これまでパナソニックが培った技術を組み合わせ、現場の負荷を軽減するインフラ点検サービスです。

「Smart Image Sensing」は、どのような技術で現場の課題を解決しているのでしょうか。
パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社 サービス事業企画部の荒木貴雄に話を聞きました。
(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者

荒木 貴雄

1993年入社。金融系技術営業、企業向け携帯電話アプリ立ち上げ、フィールドサポート等さまざまな業務を経験。2017年より「Smart Image Sensing」立ち上げに携わる。主にプロモーションを担当し、展示会やWebプロモーションなどを通じてサービス訴求に努める。

スタートは、パナソニックの技術が詰まった水中点検ロボット

「Smart Image Sensing」はインフラ点検サービスとうかがいました。ここでいう「インフラ」とは何を指しているのでしょうか?

道路やトンネル、橋、鉄道、電力、ガス、通信網……などなど、いわゆる一般的な「インフラ設備」ですね。建設からずいぶん経つものって、点検にもコストがかかるんですよ。いっそ建て替えられたいいんでしょうけど……。

『シムシティ』みたいに一瞬でできたらいいんですけどね。

しかし、そうもいかないと。さらに労働人口も減ってきている。なんとかしなければ……という課題を解決するものとして、「Smart Image Sensing」が立ち上がりました。

でも、建造物のメンテナンスって土木や建設業の領域ではないですか? パナソニックさんのイメージとちょっと違う気もするんですが……。

さすがにパナソニックも道路までは作ってないですからね。

ですよね。

なので、パナソニックが持つ技術を、点検作業に生かせないかと考えたんです。最初のきっかけは「ダム」でした。水を張ったダムの壁面を、水中ロボットで点検するサービスを関西社がはじめたんです。

逆に、それまでは人が潜って点検してたってことですか? めちゃくちゃ大変じゃないですか!

そう、本当に大変なんですよ。ダイバーが壁に沿って泳ぎひび割れの有無などを確認するんですが、深くて広範囲なので、点検には何日間もかかります。当然人件費もかかるし、なにより危険ですよね。

ロボットに任せたくもなりますね……。

そこで、パナソニックのロボティクスと画像解析の技術を活用してこの課題を解決できないか、という話になったわけです。ボートに乗った人間が水中ロボットを操作し、ダム壁面を撮影します。点検データとして収集した撮影画像はリアルタイムに確認できるので、事務所から撮影箇所の指示がその場でできるんです。

画像解析の技術はどのように役立っているのですか?

ダムの水は濁っていますよね。その中でも壁面を確認できるように、画像を鮮明にすることができる技術が使われています。また暗いところを照らすためのLED照明の技術も入っていたりして。

照明から画像解析技術まで、パナソニックのノウハウが詰まってるじゃないですか。

それも以前から社内で培ってきた技術なんですよ。既存の技術を組み合わせて、新たにサービスとして提供していこうという狙いもあるんです。

道路の揺れを撮るため、ひたすらトラックを待った

その後、水中ロボットがきっかけで、ビジネスソリューションとして正式に提供するようになったんですね。

水中ロボット点検サービスを始めたのが2016年のことでした。そこからインフラ点検へとサービス範囲を広げようと、全社横断のバーチャル組織を作ったのが2017年4月。そこから約半年後に正式な組織として立ち上がります。「Smart Image Sensing」という名称もここからですね。

正式に立ち上げてから、どんなサービスを始めたんですか。

「4K画像活用構造物点検サービス」を提供しています。橋や道路といった構造物の「揺れ」を測定するものですね。

ちなみにですが、元々、そうした揺れの点検というのはどのように行っていたんですか?

手作業でセンサーを設置して測っていたりしていたんですよ。例えば橋だったら、その端から端までカバーできる大規模な足場を組んで、測定したいポイントにセンサーを取り付けて、しばらくしたら回収して結果を集計するという。

ものすごい手間ですね……。

対して、「4K画像活用構造物点検サービス」は、すこし離れた場所から4Kの高解像度カメラで現場の動画を撮影します。

撮影して、次は……?

撮影して、終わりです。

え、撮影するだけ?

するだけです。あくまでも現場では、ですけどね。後日、撮影した動画を解析して、電車や車が通ったときに構造物のどこがどう揺れるのかを計測するんですよ。

その揺れって人間の目には……?

ほとんどわからないですね。4Kのカメラであれば、50メートル離れたところから、鉄橋の揺れを1mm単位で計測できたりするんです。

動画だけでそこまで分かるんですか!? 4Kの解像度がそこまで高いとは……。

でも、撮影はそれなりに大変なんですよ……。解析には十分な明るさが必要なので、事前に撮影日の日の出と日の入りの時刻を調べます。日の高さも重要なので、その次は「太陽の位置がここだから影がここに出るので……」とシミュレーションするんです。必ず下見をして、「この場所この時間帯でしか撮れない」という条件まで絞り込む。

文字通り、時間との闘いじゃないですか。

そこまでしたのに撮影当日、いざ電車が通ったら車両の窓で日光が反射しちゃって。その光がカメラに入って肝心な部分が見えなくなって、撮り直しになったり……。

それは辛い……。やはりリアルな現場には「魔物」が住んでいますね。

まだ電車はいいんですよ、ダイヤがあって何時何分に通るかわかるから。道路はもっと大変ですね。過去にある地方の一般道で「トラック待ちです!」ってなったことがあります。揺れなくて(苦笑)

揺れを測定したいのに揺れない!(笑)

普通の車は通るんですけど、それだと軽すぎて橋が揺れないんですよ。ある程度重量がある車がいいんですが、もういくら待っても全然トラックが通らなくて! 仕方がないので、撮影に立ち会っていた道路管理の方にトラックを持ってきてもらいました。

撮影日が延期になったら、また日の出を調べるところからやり直しですし……。

お願いだからトラックを走らせてほしい……と。あれは大変でしたね(苦笑)

机上で考えず、現場のニーズを拾い上げる

新たな技術と言えば、いま話題のAIを活用したりもするのでしょうか。

「インフラ設備撮影サービス(仮称)」では画像解析にAIを用いています。電柱の点検などを想定したサービスですね。電柱って、風で物が飛ばされたものが引っかかったり、鳥が巣を作ったりすることがあるんです。そのままでは送電に支障をきたすので、常に異物の有無をチェックしないといけない。

ひょっとして、今はそのチェックも人海戦術で……?

その通りです。電力会社やその関係会社が車で巡回して、目視で確認しているんですよ。ドライバー含めて2、3名の点検担当が必要なので、それなりに人手もかかります。そこで、巡回する車に車載カメラをつけ、撮影データからAIが異常を検知するサービスを提供しようと。

正常な状態をAIに学習させて、異常な箇所を抽出させるわけですね。そう考えると、電柱以外にもいろいろ使えるんじゃないですか?

はい。例えば車道で行われている工事も検出できますよ。黄色と黒のフェンスやカラーコーンなどを学習させればいいんです。GPSで位置情報も取得できるので、「いまこの場所でやっている工事は、ちゃんと事前に申請されているのか?」もチェックできます。

なるほど! こうした用途は、現場の方からヒアリングして探ったりするんですか?

そうですね。私たちが机の上で考えるだけでは、現場のニーズは拾えませんから。

やはり「生の声」が必要不可欠なんですね。

ただ、業務のごく一部分を切り出して「これができます!」とアピールしても、全体的な効率化には繋がらないんです。100ある作業が98になりますよ、と言われても……。

現場の人からしてみたら、それなら自分たちでやるからいいよ、となりそうですね……。

そこで「ここにも、ここにも、ここにも役立ちます!」と提案するためには、私たちも100ある作業の全体をしっかり把握しないといけませんよね。営業活動や展示会、Webの活用などを通じて、もっとお客様のお話をうかがう機会を設けないと、と考えているところです。現場の経験がないと、分からないこともあると思いますから。

高性能の「モノ」を売るのではなく、価値ある「コト」を提供する

それにしても電力に鉄道に道路に……と、「Smart Image Sensing」はかなりの広範囲をカバーしてますよね。しかも、まだまだ出来ることがたくさんありそうで。

想定外のオファーもありますね。先ほど、4Kカメラで揺れを検知するサービスがあったじゃないですか。あるエネルギー系の企業から、「あのカメラでコンプレッサーを撮影してほしい」という依頼があったんですよ。

コンプレッサーって、鉄橋ほど大きくないですよね? 揺れているかどうか、人の目でわかりそうなものですが……。

そもそもその機械、稼働中はずっと揺れてるんですね。

それなら、「揺れてますね」で終わりなのでは?

いやいや。揺れてるんですけど、「設計で想定した揺れ方」と「そうでない揺れ方」があるんです。変な揺れ方をすると、機械を土台に固定している部分が破損してしまう。本当に設計上の動きをしているのか、揺れ方を確かめてほしいという依頼でした。4Kカメラで接写すれば、0.1ミリ以下の揺れまでわかりますので。

そうか、鉄橋が1ミリ揺れたのがわかるくらいだから……!

しかし、よくこんな用途を思いついてもらえたなと、こちらも驚きましたよ。たいてい、展示会で4Kカメラを活用したサービスのことを説明しても、驚かれるばかりで次につながらないことが多いんです(苦笑)。 「そんなことが……」と、ポカーンとしてはもらえるんですが……。

先ほどの私みたいに、びっくりしすぎて理解が追いつかないのかもしれません。

コンプレッサーの一件で「大規模な構造物に限定することはないんだ」と気づけたのは発見でしたね。まだまだポテンシャルはあるんだなと。

「Smart Image Sensing」は、これからもサービスを増やしていくんですか?

新しく、サビを検出するサービスを予定しています。パナソニックには現場で使える頑丈なタブレット/PC「TOUGHPAD/TOUGHBOOK」がありまして、これを使って点検対象のサビをチェックしようと。用意したアプリでサビを撮影してもらい、サーバーで画像を解析して、サビの進行度合いを判断するものです。

これなら4Kカメラを用意しなくても、現場レベルで扱えますね。

高機能・高性能の「モノ」を売りたいわけではなく、現場にとって価値がある「コト」を提供したいんです。以前は、とにかく機能と性能を上げていけば売れる時代だったじゃないですか。でも今は、「お客様が本当に必要な機能か」「やりたいことができるか」をきちんと見極めなければいけません。ただただサービスを乱立させても意味はないだろうと。

サービスに価値を感じて、初めてお客さんに使ってもらえるわけですからね。

そうなると次は「どうやって価値を伝えるか?」です。昔ながらの営業からWebへと、お客様との接点を持つための方法も時代と共に変わっています。私たちや「Smart Image Sensing」のコンセプトに共感したうえで、実際に使っていただく……というケースが増えていったら嬉しいですね。サービスをより良くしていくために、お客様の声は必要不可欠ですから。

さっきのコンプレッサーみたいに、思ってもみなかった「声」も聞こえたりしますしね。

ここまで広がると、もう何から手をつけていいかわからないですよ(苦笑)。5年後10年後、現場で作業されているベテランがガクンと減ってしまう前に、効率化できる部分を見つけていきたいですね。さらに利用して頂いたサービスから得られたデータを今後どうやって活用できるのか、考えていかなければなりません。まだまだやることがいっぱいです。