P社員控室

コンテンツを起点に快適な空間を設計する。デジタルサイネージソリューション「AcroSign」

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載「87会議室」。今回のテーマは、デジタルサイネージソリューション「AcroSign(アクロサイン)」です。

サイネージ(Signage)とは、英語で「看板」や「標識」を表す言葉。つまりデジタルサイネージとは、ディスプレイに文字や映像を投影する言わば「電子看板」です。近年は交通機関や商業施設などで、広告や店舗案内を流しているサイネージをよく見かけるようになりました。

かつては通信社から配信されるニュースや天気予報を流していたサイネージも、ネットワーク対応などによって、多種多様なコンテンツを配信できるようになりました。さらに、4Kディスプレイやプロジェクター、LED照明などのデバイスが進化することにより、デジタルサイネージそのものの表現力が向上しています。その結果、さまざま用途に応じたサービスやコンテンツの放映が可能になったのです。

デジタルサイネージの新しい用途のひとつとして「空間演出」を掲げているのが、パナソニックのサイネージソリューション「AcroSign(アクロサイン)」。パナソニックが持つ広告や災害情報などのコンテンツ、クラウドを利用した配信システム、そしてディスプレイやプロジェクターといったデバイスを組み合わせ、2015年にデジタルサイネージの新ブランドとして立ち上がりました。

AcroSignによる「空間演出」とは、どのようなものなのか。AcroSign立ち上げの経緯や、デジタルサイネージが目指す姿について、パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社 コンテンツメディアサービス部の佐村智幸に話を聞きました。
(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者

佐村 智幸

外資系衛星放送企業などを経て、2000年に入社。ケーブルテレビのデジタル化における事業推進や、デジタルケーブルテレビの標準化を担当。2015年より「AcroSign」の立ち上げに携わり、現在はコンテンツメディアサービス部にてAcroSignの導入提案に従事。

「サイネージについて語ることが、人によってバラバラだったんです」

今日はよろしくお願いします。佐村さんはデジタルサイネージ「AcroSign」の立ち上げに携われたとお聞きしました。そもそもAcroSignは、どういった製品なのでしょうか?

井上さん。

はい。

これは最初にご理解いただきたいのですが、AcroSignは「製品名」ではなく、「ソリューション名」なんです。モノの名前ではないんですよ。

モノの名前じゃない……?

元々パナソニックには「NM Stage」というサイネージ製品がありました。これを2015年に見直すことになったのですが当時はまだ素人で。「サイネージってどういうもの?」って社内外に聞いて回ったんです。でも、みんな言ってることがバラバラだったんですよ。

サイネージって……駅でよく見かける、大きなディスプレイに広告とかが流れているアレですよね? シンプルな製品で、とても人によって認識に差が出るとは思えないのですが。

アレのことで間違いありません。後でわかったんですが、サイネージって製品だけを見ればどこも同じなんですが、ビジネスモデルはお客様によって違っていたんです。

同じ製品なのに、儲けかたが違うってことですか?

そうです。例えば、駅にあるサイネージは、サイネージを保有するオーナーが広告によって収入を得ています。メーカーにとっては、そのオーナーがディスプレイなどのシステム一式を納入するお客様です。

一方で外食産業、カフェやレストランなどがお客様の場合、我々メーカーがシステムに加えて運用も任されることがあります。サイネージには、サイネージ製品を販売する、システムを販売する、運用を担う、コンテンツを制作するなど、さまざまなビジネスの形が存在するんです。「情報と映像を流すシステム」ということは全部一緒であるにも関わらず。

なるほど……。場所によって流す映像も違うし、管理している人も、用途も異なりますもんね。考えたこともありませんでした。

私もですよ。約1年間サイネージ業界をリサーチしていると、皆さんが口を揃えて「サイネージはこの領域でしか儲からない」と言うんです。しかし、それぞれが言う"この領域"というのが、ハード、運用、システム、CM・コンテンツなど、人によってバラバラ。その理由がようやくわかりました。「みんな結局正しかったのか!」って(苦笑)。同じものを見ていても、みんなその視点が違っていたんです。

どうりで混乱するわけですね……。「みんな違って、みんないい」みたいな話だったとは。

そうなると、単純にモノを売るだけではもったいないんです。当時のサービスをリニューアルするなら、サイネージに含まれる「デバイス」「配信システム」「コンテンツ」の価値を最大にするために、さまざまな要求に応えるソリューションであるべきだと考えました。だから「AcroSign」は製品名ではなく、ソリューション名なんです。

「避難してください」を表示してはいけない理由

製品ではなくソリューション……。ということは、業務用システムを開発するのと同じように、お客様の要望を聞いてサイネージを設計する、ということですか。

はい。私が所属する「コンテンツメディアサービス部」の役割がまさにそれです。どういう情報を流して、どういう演出・目的のものにしたいのか。コンテンツ・サービス要件を理解して「だからこのようなシステムにしましょう」とコンテンツを起点にして、システム設計をしているんです。

そういえばこの部屋の入り口にも、大きなサイネージがありましたね。あれも佐村さんが?

はい、あれにも携わりました。パナソニックとして、デバイスや空間の新しい使いかたを見せていきたいと思いまして。最初は9面マルチの大画面を予定していたらしいんですが、「ありきたりの9面マルチは古い! 変えませんか?」と(笑)。

ショールームの入り口の写真

ショールームの入り口に設置された巨大なサイネージ。縦長のパネルが11枚つながり、横長の大きな一枚の映像になっている。

パネルをつなげて、大きなスクリーンみたいになってますよね。これって、それぞれのパネルごとに縦長の映像を作って、同時に流すんですか? なんだか大変そう……。

最初は1枚の大きな「仮想スクリーン」として、コンテンツを作るんですよ。それをシステムがパネル1枚1枚に分割して、同じタイミングで再生ができる仕組みです。駅のサイネージなどでも、たくさんのサイネージに同時に同じ映像が流れたりしますよね? これが「同期配信」と呼ばれる技術です。

ちゃんと便利な技術があるんですね! 安心しました。以前に比べて、サイネージで表示するコンテンツの内容も変わってきましたか?

最近だと、ご時世柄か「防災情報を出したい」という話を自治体からよくご相談いただきますね。ただ、防災情報にもいろいろあるんですよ。自治体や消防庁、気象庁で防災情報の内容も異なります。この数年で防災情報にはだいぶ詳しくなりましたね。

関わる分野が多いから、覚えることも多いですよね……。

大変なんですよ……。防災情報も通常のコンテンツと同じで、どういう情報を流すかはもちろん、それを「どこに、どう出すか」までよく理解しないと、設計ができませんから。例えば、単純に建物のなかで「地震が起きたので、避難してください!」とだけ表示したら、恐らくパニックになりますよね。

どれくらい揺れるのかわからないし、避難場所もわからない……。それは混乱しますよね。

では「○○に避難してください」と表示したとしましょう。しかし、いざ指定された場所に行ってみたら、地震の影響でその場所の機能がストップしていたり、カギが開いていないなんてこともある。ただサイネージで誘導するのではなく、防災システムと連動した仕組みを作ることも考えねばと思うんです。サイネージの前にいる人に最適化した、より正確な情報を早く届けるために。

そこで最初の「モノを売るだけではダメ」という話につながると。ソリューションが必要になるわけですね。

エンタメではない、パナソニックだからこそ可能な「空間演出」とは?

冒頭で「映像を流すシステムは一緒でも、ビジネスモデルはバラバラ」という話がありましたよね。ということは、サイネージ全体のシステムで他社と差別化を図るのって、大変なんじゃないですか?

その通りです。AcroSign立ち上げの時は、競合他社との差別化を一生懸命考えたんですが……。AcroSignのコンセプト図がようやくできたと思ったら、当時の部下から「佐村さん、あの会社のホームページに同じ絵がありましたよ」なんて言われたりして。

それは膝から崩れ落ちそうな指摘ですね……。

そこで、他社には無くてパナソニックにある部分ってなんだろう、と考えたときに、「デバイス」に行き着いたんです。

パナソニックには、ディスプレイだけじゃなくて照明やプロジェクターもある。機器の性能が向上して、プロジェクションマッピングなども盛んになってきた。さらに、パナソニックには防災システムのノウハウもある。これらを組み合わせたら「情報を投影することで、空間そのものを形づくれるのでは」と思ったんですね。これを「空間演出」として打ち出しました。

なるほど、エンターテイメント分野ですね! いまやプロジェクションマッピングやVRなど、映像コンテンツの技術は花盛りですよね。壁いっぱいにきれいな花びらが舞ったり、自分の体と一緒に画面内のキャラクターが動いたりとか……。

いえいえ、そちらはそちらで業界にはあるんですが、私たちが言う「空間演出」はちょっと違うんです。

違うんですか? 無数の流星とともに宇宙に飛び出したりとかも……。

しないです。映像が主役のコンテンツではなく、場所に馴染んで、そこにいる人にとって快適な生活空間をサイネージで演出するのが、私たちの「空間演出」です。例えば、カフェでお客さんがコーヒーを飲んでくつろげるよう、店内のサイネージを活用するだとか。またそれと一緒にそこで働く従業員の業務サポートもできるとか。

確かにカフェで宇宙に飛び出す必要はないですね……。

ドライブスルーや店舗案内といった業務用途のサイネージもあれば、お客様が滞在する空間を演出するためのサイネージもある。特にショッピングモール等の商業施設や飲食店に設置する場合は、空間に対して何を打ち出したいかを必ずヒアリングしていますね。

他にも空間演出の事例などありますか?

最近の大きな事例だと、成田空港の第1・第2ターミナルの大規模リニューアルに伴い、到着コンコースの空間演出を手がけました。海外からのお客様を空間演出でお迎えをする形ですね。

第1・第2ターミナル到着コンコースにて、訪日外国人をはじめとしたお客様に対し、プロジェクターや液晶パネルを活用した空間演出を行う。https://www.naa.jp/jp/20190131-ArrivalConcourse.pdf

この案件は公募だったんですが、コンテンツを含めた企画提案が求められたんです。メーカーだけでなく、施工会社や通信会社、映像クリエーターなど各社入り乱れて提案があり……。

まるで異種格闘技戦じゃないですか。

まさに。そして、今後も「異種格闘技戦」の状態は続くのではと思います。モノ売りだった頃はメーカーだけがライバルでしたが、今や施工会社から通信会社の動きまで視野に入れないといけません。ソリューションを手がけることで裾野が広がっていますから。

IoTと融合する「未来のサイネージ」

AcroSignの今後の展開についてお聞かせいただけますか。

ここ数年でサイネージ業界でも「空間演出」という言葉が飛び交うようになりました。ただ、みんな「空間演出」の定義がまちまちで、井上さんが想像したようなエンタメ系の演出を行う企業もいます。我々が目指す空間演出の姿を明確に打ち出していかねばと思っているところです。

そうなると、やはり実際に見せるのが早いですよね。

そうですね。昨年夏には「KUKAN BORN」という展示会をパナソニックで行いました。「デジタルサイネージジャパン」への出展も定期的に行っています。やはり実際に投影してみないと、イメージが湧かないものが多いんです。今後は、メーカー系や流通系などの展示会も視野に入れたいですね。

パナソニックセンター東京にオープンした空間価値創造ラボ「KUKAN BORN」の様子。
©2018 Panasonic Wonder Team

未来のサイネージって、どんな姿になってるんでしょう。ディスプレイに映像を出すだけでは済まなくなってそうですよね。

IoTや情報サービスと組み合わせたら、もっと面白いことができると思うんです。サイネージに人が近づいたときに、その人のスマホと連動してパーソナライズされた情報を表示したりとか。天気予報でこれから雨だと分かったら、照明やプロジェクターで雨が降るような演出をするのもいいですよね。

「今日は暖かいから、照明をオレンジにしよう」とAIが判断する、みたいな感じでしょうか。

そのうち全部AIが考えて、空間演出をしたり、コンテンツまで勝手に作ってくれたりするかもしれません。これからどうなるのか、自分でも楽しみですね。そうなったら、私の仕事はまだあるのかな?(笑)