離れた場所でも、現場と本部の目線を共有。コンパクト&シンプルに生まれ変わった「ウェアラブルカメラ映像伝送ソリューション」

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載コラム。今回のテーマは、「ウェアラブルカメラ映像伝送ソリューション」です。

一般的なビデオカメラに比べ小型かつ軽量で、体に装着して手を使わずに撮影できるウェアラブルカメラ。「アクションカム」とも呼ばれ、アウトドアスポーツなどの臨場感溢れる映像を撮影することできます。近年は高精細の4K動画を撮影できたり、さらに小型化が図られたりと、活用範囲が広がっています。

そのウェアラブルカメラを現場作業に活かしたのが、パナソニックの「ウェアラブルカメラ映像伝送ソリューション」。作業者が持つウェアラブルカメラの映像を配信し、遠隔拠点からの業務支援を実現するものです。作業者の視界を共有しながらコミュニケーションを図ることで、作業効率化や人件費削減に貢献します。2014年の初代モデル発売を経て、2020年2月にさらなる小型化・汎用化を含めた新モデルがリリースされました。

「ウェアラブルカメラ映像伝送ソリューション」はどのような経緯で開発されたのか、どのような課題を乗り越える必要があったのか。パナソニック コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテインメント事業部の中嶋由則に話を聞きました。

(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者

中嶋 由則

メディアエンターテインメント事業部 プロAVマーケティング部 国内営業課
1992年入社。民生向けレコーダ、ビデオカメラ等のソフトウェア開発を経て、2014年よりプロジェクトリーダーとしてウェアラブルカメラ映像伝送ソリューションに携わる。メディアエンターテインメント事業部ビジネスソリューションセンター アジャイル開発部を経て、2020年4月より国内営業課に異動。

現場目線の映像を伝送、本部とのコミュニケーションでサポート

さっそくですが、こちらにご用意いただいたのがソリューションで利用するウェアラブルカメラと端末ですね。

そうです。「ウェアラブルカメラ映像伝達ソリューション」は、作業者の目線映像を遠隔地にリアルタイムに伝送して、現場作業をサポートできるのが主な機能です。音声は双方向通信なので、現場とのコミュニケーションも図れます。

本部でも、現地の映像を見ながら「そこ、もう少し右!」みたいな指示が出せる、というイメージですか。

まさにその通りです。ここからは実際に見ていただきましょうか。こちらが現場で作業者が身につけるウェアラブルカメラと、送信用の端末です。カメラをオンにしますね。

あ、映りました! へぇ~、配信された映像なのにキレイですね! 遅延も全然ない。

そのタブレットに映っているのは、カメラから有線で送られてきた映像ですね。今からネットワークを経由したものはこれから配信しますので……。

そうでしたか。お恥ずかしい……。

タブレットにもSIMカードが入っていまして、携帯電話網で映像を送ります。映像を受信するのがこちらのノートPCです。モバイルルータ経由で映像を受信して、モニタに……。

(手を振りながら)本当に映りました! おぉ、タブレットからの映像とスマートフォンからの映像を一つの画面に映して確認できるんですね。これは最大で何台つながるんですか?

同時に視聴できる最大数は12台です。ネットワークの接続はパナソニックのクラウド経由で行われていまして、最大50台のカメラを画面左のリストに追加できます。そこから同時に見たい映像を選択する、という形ですね。

厳選された12名の映像を同時に見られるわけですね。映像と音声を送る以外に、コミュニケーションを助ける機能などはあるのでしょうか。

「スケッチシェア」という機能がありまして、静止画の上から手書きの線などを双方向から書き込めます。「この光景のこの部分」というのを図で説明できるようにしました。

確かに声だけで伝えるには限界がありますもんね。「その右のやつを押して……違う違うそっちじゃない!」「それは行き過ぎ!」みたいなことになっちゃう。

あとは記録作業のサポートですね。撮影した映像は録画して残せますし、簡易レポート機能も備えています。映像から撮影した静止画とメモを1日のレポートとして残せるので、振り返りも楽になりますよ。

現場で作業する方は、ハンズフリーで作業ができ、わからないところは本部に聞けて、1日の終わりの記録も簡単に付けられると。至れり尽くせりですね!

「ベテランからの技能伝承」をコンセプトに立ち上がった初代モデル

……あれ、ここに置いてあるでっかいのは何ですか?

これは2014年に発売した初代のモデルです。今回リリースした「ウェアラブルカメラ映像伝送ソリューション」は実は2代目で、私は初代の立ち上げからこのソリューションに携わっているんですよ。

初代モデルはずいぶん大きいですが……。これ、ベルトに端末を挿しているんですか。

そうなんです。映像処理端末部とモバイルルータ、モバイルバッテリの一式を専用ベルトに収納し、作業時はベルトを腰に巻いて使用していました。2代目はその3つがタブレット端末ひとつに置き換わっています。

ずいぶんシンプルになったんですね。そもそも初代モデルを開発したきっかけは何だったんですか?

当時、団塊世代の大量退職が社会問題となっていました。現場で作業するベテラン世代が退職してしまうと、彼らの技術が若手へ正しく伝承されていかないかもしれない。退職前に教えようにも、1人のベテランに対して若手がたくさんいる。それぞれの現場に同行していたら時間が足りなくなってしまうと。

そこで「遠隔地から作業をサポートしよう」という発想になったんですね。

そうです。ベテランが本部に残って、若手たちがそれぞれの現場から映像を送れば、まとめて技能を伝えることができます。

ソリューション自体はどこから着手されたんですか?

当時パナソニックは民生品のウェアラブルカメラを出していたので、その技術にうちの強みである通信機能を加えました。それまで民生品の開発しかやっていなかったんですが、初めて業務用ソリューションとして開発したのが初代モデルになります。

民生品の開発から業務用の開発にシフトしたことで、何か変化したことはありますか?

やはりネットワーク環境でしょうか。民生品のモデルではWi-Fiで映像を送っていたのに対し、屋外の現場で使う業務用モデルは携帯電話網を使わないといけません。しかし、ご存じの通り携帯電話網はWi-Fiよりエリアが広いぶん電波状況が不安定な場合もあります。

わかります。思わぬところで圏外になったり、アンテナ1本でぎりぎり持ちこたえていたり……。

電波状況が不安定ということは、帯域も変動しやすいんです。データを送るための道路が、勝手に細くなったり太くなったりする状態ですね。そんな状況でも安定してデータを送れるようにしたのが、QoS(Quality Of Service)と呼ばれる技術で……。

QoS、HDコムの回のときにお聞きしました! 確か「いま最大限どれだけのデータが送れるか」をリアルタイムで計算して、最適な量と速度(伝送レート)でデータを送るようにすると。

そうです。同じ技術がここでも使われているんですよ。

開発にあたっては、現場でのヒアリングもされたのでしょうか。

電力会社さまの案件では、私も技術責任者の立場で、営業と一緒に現場を回りましたね。電柱の上での作業とか……。

もしかして、電柱に登ったんですか!?

いえいえ(笑)。作業する方がカメラをつけて、上長は事務所で確認するんですよ。その様子を見せていただきました。現場で「ここで映像が途切れる」といった課題を把握したら、製品にフィードバックする。最終的にその電力会社さまには約650台導入していただきましたね。

1対nから、複数拠点で映像確認できる「n対m」の関係に

初代モデルから2代目へのバージョンアップで、見た目はだいぶコンパクトになっています。他に大きく変わったところはありますか?

初代は1chの伝送だったところから、4chのマルチキャストになったことですね。

4chのマルチキャストというと……?

順を追って説明しますね。初代モデルは、現場のカメラから映像を送れる相手が1つだけ、1chのみだったんです。つまり、カメラ1台に対しその映像を見られる場所も1つ。そのうえ、1つの本部に対して映像を送ることができるカメラは最大で6台、という状態でした。

それで十分な気がしますが……?

ところが実際にお客様にヒアリングすると、「複数の拠点から確認したい」という声がいくつもあったんです。現場に近い事務所もあれば、支社もあるし、本社もある。現場と本部は1対1じゃないんですよ。

あちこちから「俺も見たいんだけど」って声が出てきたんですね。

そこで2代目モデルはカメラ1台につき4箇所まで、最大4ch伝送できるようにしました。本部と現場が1対nの関係から、n対m(多対多)の関係に変わったんです。

でもそれって、端末側はすごく忙しいですよね。カメラから来た映像を、4箇所にババババって送信しないといけないってことじゃないですか? 電波状況だって不安定でしょうし。

そうなんです。遅延が起きないようにしつつ、狙った性能を出すのに苦労したんですよ。先ほどのQoS技術を駆使してなんとか実現したんですが、今度は端末が熱くなってしまって……。

電力をめちゃめちゃ使っちゃうんですね……!

4chのストリーミング配信なので、CPUに大きな負荷がかかるんです。Android端末は熱くなると警告を出して使えなくなってしまうので、性能を保ったまま省電力にしないといけない。端末が警告を出す様子が夢にまで出てきて……。

心中お察しします。

モバイル機器なので、電池の持ちも重要なファクターですからね。最終的には低遅延・省電力を実現して、必要十分なスペックに落とし込めました。2代目モデルは屋外で約6.5時間稼働できます。

すごい。1日外で作業するぶんには申し分ないですね。そういえば遅延の話が出ましたけど、いわゆる「音ズレ」、映像と音が合ってない状態にはならないんですか?

あぁ、ひと昔前の衛星中継みたいな感じですよね。

まさにそれです。口の動きと声がズレて聞こえてくるような。

その点では、映像と音を同期させることよりも、遅延時間を短くするほうに注力していますね。音声は双方向通話なので、遅延が起きると会話がしにくいですから。それに、この製品は映像と音がズレても意外に気にならないんですよ。

どうしてですか?

ウェアラブルカメラは目線の映像なので、作業者の口元が映らないんです。話し声と唇の動きが合っているか、気にする必要がない。

なるほど……! 口パクの状態にはならないですもんね。

だから、映像と音がズレないように頑張るより、それぞれの遅延を極力短くするほうを優先しました。これは初代モデルのころからあるコンセプトですね。

「ソリューション商材は、発売してからが本当のスタート」

2代目モデルが発売されたばかりですが、「ウェアラブルカメラ映像伝送ソリューション」は今後どのような展開を考えられているのでしょうか。

これはまだ予定は立っていない、私が想像しているレベルですが……ゆくゆくは海外で使えるようにできたらいいな、と。現在は国内向けのモデルなのですが、国内のお客様であっても「海外の工場で使いたい」という要望も出ると思うんです。

確かに、海外工場の様子を日本の拠点で確認できたら便利でしょうね。

そのために越えねばならない壁が「携帯電話網」なんです。今、国内ではパナソニックのMVMOとNTTドコモさんの回線を推奨回線にしているんですが、海外では現地の携帯キャリアを使うことになります。回線の速さや電波状況を確認するには、その土地その土地で検証しないといけないんですよ。

国ごとの電波状況の違いももちろんですし、「街中では通じるけど山間部にある工場は圏外」ってなったら大変ですもんね。

検証のハードルは高いですが、将来的にはトライしていきたいところです。

初代モデルからだいぶスリムになりましたし、さらに活用の幅も広がりそうですよね。

これまでも電力、通信、製造などの分野で導入いただきましたので、新たな業界にも提案していければ。……で、実は私事で恐縮なんですが、2020年4月1日付けで異動になりまして。

えっ! じゃあもう、開発のプロジェクトリーダーではないんですか!?

事業部の国内営業課にSEとして異動して、よりマーケットに近い立ち位置でこのソリューションをご提案する立場になりました。

開発からユーザーの近い場所への異動なんですね。これまでと全然違うキャリアですが、ご自身で希望されたんですか?

自分がやるべきことがなにか、自分でしかできないことはなにか、考えた結果の異動ですね。ソリューション商材は、発売してからが本当のスタート。お客様の声を聞いてフィードバックするためには、技術に理解がある人間が話を聞いた方がいいじゃないですか。自分が一番、この商品をわかっていますから。

初代からずっと見ているんですもんね……。周りの方は驚かれたんじゃないですか?

私の活動を理解されている関係者は、ありがたいことに喜んでくれています。メンバーが認めているということは、この判断は間違っていないのかな、と。

2代目モデルと一緒に、中嶋さんも新しいスタートを切るわけですね。

モノと一緒に私も出荷されたみたいになっていますが(笑)。やはり、いち開発者として、世の中の役に立ちたいという思いが強くあるのが事実です。これまでの経験を活かしながら、新たなフィールドで経験を活かせればと思います。