「フリック操作はわからないと言われました」現場の声に耳を傾け、使いやすさを追求した電子黒板「JOINBOARD」

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載コラム。今回のテーマは、電子黒板「JOINBOARD」です。

教育分野へのICT導入は、全国の小中学校にも及んでいます。文部科学省の主導により、児童生徒1人につき1台のPCが割り当てられるようになるなど、教室内のICT環境整備が進められているのです。そのうちのひとつが1教室に1台置かれる「電子黒板」。

電子黒板は大きな手書き入力のスペースとして使うのはもちろん、デジタル教科書などを映し、先生や児童生徒がその上から自由に書き込むことができる、言わば"未来の黒板"。導入によって、板書や授業準備の時間を短縮、図や映像などを用いて児童生徒の理解をサポートする狙いもあります。

パナソニックは教育のICT化が本格化するよりも前、2012年に最初の電子黒板を発売しました。以降、学校現場の声を反映しながらアップデートを続け、2020年2月に5代目となる「JOINBOARD BQ1シリーズ」をリリースしました。

「JOINBOARD」はどのような変遷を経て進化をしてきたのでしょうか。また、その開発にはどのような思いが込められているのでしょうか。メディアエンターテインメント事業部 ビジュアル技術部の北村隆に話を聞きました。

(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者

北村 隆

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテインメント事業部 ビジュアル技術部
1991年入社。国内/海外向け民生用テレビの商品設計、業務用ディスプレイの商品設計の担当を経て、PDP/LCDデバイスを用いた電子黒板モデルの商品化を担当。

教室というシチュエーションで大切なのは、「平等性」

今回のテーマが「電子黒板」だとうかがいちょっとイメージしてみたのですが、確かに教室の黒板がすべてデジタルに置き換わったら、授業が進めやすいですよね。板書の時間もかからないし、チョークで服が汚れることもないし……。

いえ、実は「電子黒板」は、黒板そのものを置き換えるものではないんです。これまでの黒板と電子黒板、2種類を併用するのが現在の方針ですね。

今回の取材は、東京と大阪をHDコムでつなぎ、テレビ電話で行いました(画面内右側が北村)

あれ、そうなんですか!? てっきり黒板くらい大きなディスプレイで授業をするのかと……。ということは引き続きチョークは?

使います。

普通の黒板はそのままなんですね……。では電子黒板って、どんなときに使うんでしょう?

デジタル教科書や実物投影機(書画カメラ)の映像を映したり、その上からペンで書き込んで説明したり、といった用途ですね。通常の授業は黒板で行い、必要に応じて登場するのが電子黒板です。

なるほど、パソコンで言うところのメインディスプレイとサブディスプレイみたいなものですね。パナソニックはいつごろから電子黒板を取り扱っているのでしょう?

最初のモデルが発売されたのが2012年です。最新モデルである「JOINBOARD BQ1シリーズ」は2020年2月にリリースされました。こちらは4Kのディスプレイを使っていて、非常に高精細な画面が表示できるのが特徴ですね。

でも、教科書に4Kの解像度までは必要ないような……? 二等辺三角形がものすごくクリアに映るわけですよね。

最近は実物投影機などの外部デバイスも4K化が進んでいますし、高精細や明るさは現場の先生の要望でもあるんです。それに、教室のどこに座っていてもきちんと画面を確認できることが大事ですから。

そうか、後ろに座っている子は全然見えない、なんてことになったら不平等ですもんね。

そう、教育の機会が均等であること、つまり「平等性」が大切なんです。他にも、外からの光が反射してディスプレイが見えにくくなったりしないよう、前面ガラスに光の反射を抑えるものを採用しています。あとは、カラーユニバーサルデザイン(CUD)対応も、平等性の観点からですね。

色弱の方に向けた対応ですよね。色の組み合わせによっては見分けがつきにくい場合がある、と聞いたことがあります。鮮明な赤が黒っぽく見えてしまうとか。

その通りです。CUDモードをONにすると、色が判別しやすいカラーパレットになり、ペンやスタンプの色に反映するようになっています。

CUD対応の配色による画面表示のイメージ(図版下部)。赤色が黒っぽくならず、色弱者にも区別できる配色となっている

教室というシチュエーションだからこそ、考慮しないといけないことがたくさんあるんですね。

もちろん、安全面にも気を配っています。万が一、不慮の事故で画面が割れた際にガラスの破片が飛び散らないよう、飛散防止フィルムで保護しているんです。映り込みを抑え、安全性が高く、なおかつコストに見合わないといけない……。条件を満たすガラスを見つけるまでに、かなり時間がかかりましたね。

4画面同時ライブ映像、10人同時書き込み……時には遊び心も

電子黒板としての機能についても聞かせてください。最新モデル「JOINBOARD BQ1シリーズ」には、どんな特徴があるのでしょうか?

特徴的なのは4画面のライブ表示ですね。PC画面や実物投影機からのライブ映像を、最大4画面同時に表示できるんです。デジタル教科書を出しておいて、実物投影機で先生のお手本を見せ、カメラで児童生徒のプリントを映す、ということも同時にできます。

すごい。まるでテレビの中継だ。

4Kディスプレイは、4分割しても1つの画面の解像度はフルHDなので、小さくなってもすごく綺麗ですよ。電子黒板なので、ライブ映像の上からペンで書き込むこともできます。

「この部分に注目」とか、実際に書き込むとわかりやすいでしょうね。書き込みは専用のペンが必要なんですか?

付属のペンも2本ありますが、指でなぞって書き込むことも可能です。10人まで同時に書き込めます。

そんなに! みんなで一斉にお絵かきでもしたら楽しそうですね。

あと9画面に分割する機能もあります。

さらっと言いましたけど、まだまだ分割できちゃうんですか。全国から同時中継みたいなことに?

いや、9分割の場合はライブ映像ではなくて、静止画像の比較に使います。例えば、グループワークで班ごとに意見を出して、各班のプリントを実物投影機でキャプチャして取り込み、9画面で並べて比較するとか。

画面がクイズ番組みたい。「全員の解答を一斉にオープン!」ですね。

9画面のうち8つを隠したり、1つだけを隠すこともできますよ。

ますますクイズ番組っぽい。最後に先生の解答をオープンしたら盛り上がるだろうな……。

これも現場の声を聞いて盛り込んだものなんです。当初は9画面ではなく、もっと少なかったんですよ。それを知った営業メンバーから「グループワークをするなら6画面から9画面は必要」という意見がありまして……。

確かに、クラスを班分けするとそれくらいの数になりますもんね。

既に開発は進んでいたんですが、途中で仕様を変更して、9画面を実現しました。比較することで他の児童生徒の考えや意見を知り、多様な考えが身に付く効果が期待できます。

実際に学校で先生の話を聞くこともあるんですか?

あります。できるだけ現場に赴いて、授業でどのように電子黒板が使われているのかを見せてもらっています。最近のモデルになればなるほど、現場に赴いて声を聞くようになりました。「現場第一」で商品化するのが我々のコンセプトですから。

現場から「わからない」と言われ、使いやすさを追求した

最初のモデルは2012年発売とのことでしたが、パナソニックが電子黒板を作ったきっかけはなんだったのでしょうか?

技術的な面での回答になりますが……。当時パナソニックはプラズマディスプレイを扱っていたんです。ご存じですか?

知ってます! 我が家で初めて買った薄型テレビはプラズマのVIERAでしたから(※お世辞ではなく本当です)

それはそれは、ありがとうございます(笑)。プラズマディスプレイは特殊な発光制御をしていまして、この仕組みを上手く使うと、画面内をタッチしたとき、触られたこととその位置を特定できたんです。そこで新たに電子ペンを開発し、画面上の発光を拾うことで、タッチ機能が実現できました。せっかくなので、これを電子黒板に応用しようと。

技術サイドで実現可能な目処がついた、という理由もあったんですね。当時は電子黒板の市場は既にあったんでしょうか?

市場というまでは育ってなかったと記憶しています。当時のメインターゲットは企業で、ホワイトボードの代わりに使われることを想定していました。次の2013年のモデルから、学校での使用を想定して、画像の上に書き込みができるようになるなど、徐々にバージョンアップをいます。

JOINBOARDの進化の過程。最新機種の画面サイズ(75インチ)と比較して103インチと、初代機種はかなり大きかった

現場の声を聞いて、初めてわかったことはありますか?

冒頭でお伝えした「利用シーン」ですね。最初は、普通の黒板を電子黒板に置き換えることを目指していたんです。ところが先生のお話を聞いてみると、普通の黒板もそれはそれで便利だから使いたいのだと。ディスプレイより大きいので一覧性もありますし、磁石で紙を貼って動かすなど自由度も高いので。

なるほど、タブレットが普及しても紙のノートはなくならない、みたいなものですね。

あとは使いやすさですね。電子黒板は「見るディスプレイ」ではなく「使うディスプレイ」。色んな機能を盛り込みたいところなのですが、先生方が使いこなせないと意味がないわけです。

先生も若手からベテランまでいますから、みんな機械に詳しいかというと……?

そうなんです。3代目から液晶ディスプレイになったんですが、当時スマホが普及し始めたこともあって、スマホっぽい操作を取り入れたことがあるんですよ。フリック操作でメニューを出せたりしたんですが、現場からは「わからない」と言われて……。

ああ、ガラケーを使い続けている方もいるでしょうから……。

そこで4代目の開発からは、多機能よりも使いやすさを重視するようシフトしました。画面下に機能をアイコン化した「コントロールメニュー」を設けて、ワンタッチで直感的に操作ができるようにしたのもここから。この機能は最新の5代目にもブラッシュアップして引き継がれています。

メニューバーは画面したに常に表示。タッチでペンや表示画面等を切り替えられる

他にもスタンプなどの新機能や、設定画面を全てタッチで操作できるようにするといった細かい変更に至るまで、より使いやすいものを追求しています。営業部門や学校現場の声を聞きながら仕様を固めていきましたので、やはり「使いやすさ」は、開発で一番大事にしている部分ですね。

教育のICT化は全体のつながりを考えることが必要

最新モデルであるBQ1シリーズの反響はいかがですか?

まだリリースから間もないので、現場からの声は集めきれていないのですが、実際に先生方にデモ機を試していただいたときはとても好評でした。特に4画面ライブの書き込みなどは「この機能を待ってました!」という感じで、とても喜んでいただけましたね。

最新モデルが出たばかりで気が早いかも知れませんが、今後の展開についてはどのように考えられていますか?

文部科学省の主導で教育のICT環境整備が進められるなかで、児童生徒が1人1台PCを持つようになります。そうなると、電子黒板に求められるものも変わると思うんです。

今は最大9画面の分割ですけど、全員分の回答を電子黒板に出したいってなるかもしれませんよね。32分割とかになっちゃうかもしれませんけど。

さすがにそこまでの分割は難しいですが……。教室のWi-Fi環境整備も同時に進められているので、先生や児童生徒のタブレットの内容を、ワイヤレスで電子黒板に飛ばしたい、という声はよく聞きますね。

確かに。もう小中学校のなかにWi-Fiが飛ぶ時代なんですね……!

教育のICT化は、電子黒板というディスプレイだけで成り立つものではありません。1人1台のPCと教室のWi-Fi環境があり、授業進行をサポートする電子黒板や実物投影機などのデバイスがある。電子黒板だけが進化するのではなくて、全体のつながり考えながら一緒に進化することが、今後のICT化で重要なのではと思います。

なるほど。今後5Gになって通信インフラも進化しますから、さらに可能性も広がりそうです。

現在でも、地方の学校間を繋いで授業をするケースがあるんですよ。電子黒板にはスピーカーもついているので、テレビ会議をするときも大画面とクリアな音質で、意見交換や交流ができます。5Gになればテレビ会議の画質も上がって4Kの高精細もいきてきますし、海外との交流授業も増えるかもしれませんね。

なんだか今の子供たちが羨ましくなってきました……。スマホも普及してきたので、次のモデルで再びフリック操作を復活させても大丈夫なんじゃないですか?

可能性はあると思いますが、一度「使いにくい」と言われたトラウマがあるので(笑)。どうでしょうかね……。