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NORTH 北へ〜アパラチアン・トレイルを踏破して見つけた僕

ビジネスの成功は心身の健康から。
心と体は深く結びつき、互いに支え合いながら、時に思いもよらないパワーを生み出します。
このコラムでは、しなやかな体と強い心を手に入れるためのオススメ本をご紹介します。今回はこちら…

負けないカラダ〜Toughnessを手に入れる本 第70回

「NORTH 北へ〜アパラチアン・トレイルを踏破して見つけた僕の道」
スコット・ジュレク 著

NHK出版 / 2,000円 税別

2019-2-18

超長距離を走る米国ウルトラマラソン界のレジェンド、スコット・ジュレクが40代で挑戦した「アパラチアン・トレイル」最速踏破のドラマ。

中高年がぶつかる壁


世界にはオリンピック競技だけに留まらず、極限を追求するスポーツがたくさんがあります。「ウルトラマラソン」もそのひとつ。主に100km以上の超長距離を走る競技です。

この世界で数々の記録を樹立してきた米国のランナー、スコット・ジュレクは40代に入り、多くのアスリートが抱える問題にぶち当たります。

それは、「自らの記録を上回ることが、もはやできない」という事実。体力だけでなく、精神力にも変化を感じていました。

伝統あるアメリカの山岳レース『ウェスタンステーツ・エンデュランスラン』7連覇や、最高気温が40℃を越えるデスヴァレーを走る『バッドウォーター・ウルトラマラソン』の2度の優勝、24時間走のアメリカ記録樹立といった過去の輝かしい戦績は自身の大切なアイデンティティ。

しかし、過去の栄華だけにしがみついて生きていくことを、スコットはよしとしませんでした。

新たなチャレンジを見つけだす


ここから、自己を再構築する作業が始まります。

アパラチアン・トレイルとは、アメリカ東部をアパラチア山脈に沿って南北に走る長距離自然歩道。

ジョージア州からメイン州にかけて14州にまたがる約3,500kmにも及ぶトレイルです。コンチネンタル・ディバイド・トレイルやパシフィック・クレスト・トレイルと並ぶ米国の三大長距離トレイルのひとつで、毎年およそ2,000人がここを何日もかけて踏破しています。

このトレイルを走り、最速記録を狙う、それがスコットの次なるチャレンジでした。

自己を更新する作業


いくらウルトラランナーとして名だたるレースで活躍してきたといっても、このトレイルの長さ、厳しさは別格です。最大の理解者である妻と、これまで切磋琢磨しあってきた仲間のウルトラランナーたちが彼の挑戦を支え、ときに一部を併走して進んでいきます。

その行程はまるで苦楽の詰まった人生を凝縮したかよう。何度も途中で諦めかけます。次第に肉体は限界を何度も超えていきました。

日々の位置情報をSNSで発信していたことから、たくさんのファンがトレイルを訪れ、好き勝手なことを言ったり、ペースを乱したりしてスコットを精神的にも疲弊させていきます。

同じように、車で先回りしてサポートする妻も、次第に心身ともに疲労がピークに達していきました。

それでも旅を続けるのは、40代になり、これまでのやり方では過去の自分を乗り越えることはできないと気づいたスコットが、自己喪失感とともに自らの中に「まだ自分はやれるんだ」という期待を抱いていたから。

体力も精神力も変化する年代にあって、それは自らを「更新する」作業でした。
トップアスリートとして、最盛期のように肉体と精神を追い込みたいと願う自分。それを実現することで、新しい自己を手に入れる、それがこの旅の意味でした。

そして、46日8時間7分という新記録を樹立します。「ミドルエイジクライシス」とよばれる中高年に訪れる危機を自らの力で乗り越えていくわけです。

アスリートに限らず、40代以上のビジネスワーカーにもきっと共感できる部分があるはず。力の湧いてくる一冊です。

(編集部)