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「東京クラシック地図」 都恋堂 著

ビジネスの成功は心身の健康から。
心と体は深く結びつき、互いに支え合いながら、時に思いもよらないパワーを生み出します。
このコラムでは、しなやかな体と強い心を手に入れるためのオススメ本をご紹介します。今回はこちら…

負けないカラダ〜Toughnessを手に入れる本 第66回

「東京クラシック地図」
都恋堂 著

交通新聞社 / 1,200円 税別

2018-10-29

レコードが高価だった昭和20年代に誕生した名曲喫茶。コーヒー代数百円で至福のひとときが味わえる名曲喫茶の文化に迫る。

日常の中のクラシック


芸術の秋。普段、クラシックを聴く機会のない人でも、ちょっとした時間に豊かな気持ちになれるのが名曲喫茶かもしれません。

昭和20年代、サラリーマンの初任給が1万円程度だった時代に、レコードは2000円前後もしました。誰もが簡単に買えるものではなかった頃、「いい音楽を聴きたい」という人たちの想いを反映するかのように、街に名曲喫茶が生まれたといいます。

その頃から現在まで営業している店もあり、熱烈なファンも多いのだとか。

都内の名曲喫茶の歴史と味わいを集めた本です。

文化遺産ともいえる「名曲喫茶ライオン」


デジタル配信の音楽を聴くのが当たり前のいま、名曲喫茶はどんな状況にあるのでしょう。

本書では喫茶店とレストランを含めて、クラシック音楽を聞くことを主眼においた店が28件紹介されています。

「名前は聞いたことがある」という店も多く、店の歴史やオーナーのこだわりなどが写真とともに記されています。

名曲喫茶が誕生した当時、象徴的な存在だったのが新宿の「風月堂」。一般の音楽ファンはもちろんのこと、文化人も多く集い、サロンのような役割を担っていました。この店から新しい文化が発信されていたといいます。

風月堂は残念ながら1973年に閉店してしまいましたが、この時代の空気をいまも残しているのが、渋谷の「名曲喫茶ライオン」や新宿の「らんぶる」だとか。

道玄坂にある「名曲喫茶ライオン」は、ヨーロピアン建築の一軒家。創業は1926年(昭和元年)で、建物だけでも文化遺産といえる存在です。

棚にぎっしりと並んだレコードのストックは5000枚以上。現在は条例の関係で3階と地下室は営業に使われていませんが、吹き抜けの1階と2階の写真を見ると、まるでコンサートホールのよう。

オーディオはすべて特注品で、この店の音が聞きたいがために、週末のたびに大阪からレコードを持参する常連さんもいるといいます。

独特の空気が流れる店


本書に紹介されている店の中で、唯一、訪れたことがあるのが新宿にある「らんぶる」。

仕事の打ち合わせでたまたま訪れたのですが、一歩足を踏み入れた途端、驚きました。地上3階建て地下1階という巨大なスケールのお店です。

開業は1950年(昭和25年)だそう。とくに印象的なのは地下のスペースで、ワイン色の布張りの椅子が200席広がり、昭和のノスタルジーを感じさせます。新宿駅の近くに、これほどの広い空間を持つ店が長らく存在していることも貴重かもしれません。

現在はお客さんからのリクエストなどは受けていないので、厳密には名曲喫茶というカテゴリーとは異なる部分もあるかもしれませんが、それでも名曲喫茶が人気を誇った時代の面影を色濃く残しています。学生時代に通い、「いまもあるんだ」と喜ばれるお客さんも多いのだとか。

ほかに、これまで何度も前を通りながら、勇気が出せずに扉を開けることができなかった名店も紹介されていて、いつか訪れてみたいと思いました。

本とコーヒーの親和性は高く、コーヒーを飲みながらの読書は日常を彩る豊かな時間のひとつ。同じように、クラシック音楽とコーヒーという組み合わせの奥深さも体験してみたくなる、そんな一冊です。

(編集部)