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「立ち直る力」 辻 仁成 著

ビジネスの成功は心身の健康から。
心と体は深く結びつき、互いに支え合いながら、時に思いもよらないパワーを生み出します。
このコラムでは、しなやかな体と強い心を手に入れるためのオススメ本をご紹介します。今回はこちら…

負けないカラダ〜Toughnessを手に入れる本 第62回

「立ち直る力」
辻 仁成 著

光文社 / 920円 税別

2018-06-18

「弱っているときにはじっとしていろ。・・・」 人気作家が息子のために記した言葉は、すべての人を励ます言葉でもあった。

主夫をしながら生まれた言葉たち


本書は、芥川賞作家で音楽家でもある辻 仁成氏が、息子さんのために紡いだ言葉をまとめたもの。

ミュージシャンや映画監督としても活躍してきた辻氏は、現在、息子さんとパリに在住し、シングルファザーとして主夫業をこなしながら創作活動を続けています。

実はこれまでの活動についてあまり知らなかったのですが、本書を手に取るきっかけとなったのは、あるWebサイトで掲載されていたレシピ集でした。

そこに登場する料理は、日々、息子さんに向けてつくってきたもの。

豊富な食材をつかって、フレンチから和食まで、手の込んだものからシンプルなメニューまで多彩な料理が並んでいました。しかも驚かされたのは、盛りつけが非常に美しいこと。息子さんの帰宅時間に合わせて、毎日心のこもった料理が用意されていました。

毎日を大切に生きること


この料理をきっかけに手に取った本書には、幅広い年齢の人に響く言葉が散りばめられています。

「弱っているときはじっとしていろ。英気を養い、再起の機会を待てばいい。人間、立ち直る力だ。」

という冒頭に記された言葉に象徴されるように、全編に込められているのは、生きるための知恵や力を蓄えよう、というメッセージのように思えます。

たとえば「一日のはじまりに。」という章では、こんなことが書かれています。

「毎朝、記録更新中

人間は毎朝、誰もが自分の記録を更新し続けているね。人間はひとりひとりが奇跡の産物。新しい今日は、人それぞれにとっての、前人未到の記録更新。いままで誰も足を踏み入れたことがない、今日を精いっぱい生きたろう。」

父と子の小さなやりとり


どこからでも読めるよう、1ページにひとつ、詩のような言葉が綴られています。

なかには、こんな親子のやりとりも登場します。

「そのひのためのカップラーメン」

『パパ、一日じゅう家にいてごはん作ってばかりはダメ。たまには飲みに行きなよ。僕は大丈夫だから外出しなよ。ツイッターちょっとやめて友達つくりなよ。日曜日まで家事やらなくていいよ。そのためにカップラーメン開発されたんじゃないの?』と言い残して、息子は友達の家に行きました。あへ。」

ちなみに、最後の「あへ。」も原文そのままです。

毎日、自分のために手間を惜しまず家事にいそしむ父親に対して、照れくささがありながらも、さりげなく感謝の気持ちを伝える思春期の息子さんの様子が想像できます。

言葉のリズムを味わう


ほかに印象に残ったのは、こんな言葉です。

「だんだん楽しくなってきた

知り合いに「だんだん楽しくなってきた」が口ぐせの人がいます。素晴らしい感覚スイッチだな、といつも感服しています。その魔法の言葉は、まわりを上向きにさせるからです。僕もこの魔法を、最近借りています。さて、だんだん楽しくなってきたぞ。」

言葉は心の持ちようをつくっていくといいますが、まさに魔法の言葉ですね。

そして、友達についてはこんなことが書かれていました。

「世界にひとり見つけられたら

一緒にいて楽しい人、なんでも話せる人、笑顔が素敵な人、そこにいない人の陰口を絶対に言わない人、たまに助言してくれる人、頼り甲斐のある人、嘘をつかない人、ちょっと熱血な人、裏切らない人、なぜか波長の合う人、なぜか会いたくなる人、そういう友達をこの世界にひとり見つけられたら幸せになるね。」

いずれも、わかりやすくシンプルな言葉ばかりですが、それらがすっと心に入ってくるのは、おそらく辻氏が音楽家であるからではないかと思いました。

言葉がリズムとともにゆるやかに響いてくる、あたたかな一冊です。

(編集部)