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このコラムでは、しなやかな体と強い心を手に入れるためのオススメ本をご紹介します。今回はこちら…

負けないカラダ〜Toughnessを手に入れる本 第39回

「グレートトラバース 日本百名山ひと筆書き」田中陽希 著

NHK出版 / 1,700円 税別

2016-07-19

NHKで話題となった「グレートトラバース 百名山ひと筆書き」。田中陽希氏が振り返る列島縦断7800kmの旅。

山も道も海も、すべて人力


著者の田中陽希さんは、プロアドベンチャーレーサー。2014年、「日本百名山ひと筆書き」にチャレンジし、その様子がNHK番組で放映されて話題を呼びました。列島縦断7800km、208日と11時間に及ぶ長い旅を振り返ったのが本書です。

百名山を登り切るというと、「登山だけを行っているのかな」と思いがちですが、田中氏のすごいところは、日本列島を人力だけで移動しているところ。

山と山と繋ぐ道は、すべて歩きか走り。動力は一切、使いません。

海ももちろん人力です。屋久島から九州本土へと渡る大隈海峡、徳島から和歌山までの紀伊水道、青森県の竜飛岬から北海道へと渡る津軽海峡、そして、北海道稚咲内から利尻島までの利尻水道はシーカヤックで渡っています。

4月1日に屋久島をスタート。北上して、雪が降る前に北海道の山を登り切らなければならないため、綿密な計画を組み、気象などを考慮しながら、一日50km〜70kmの道を進んでいきます。

強い精神から生み出されたマネージメント力


とにかく驚かされるのは、セルフマネージメント力です。

「今日はここまで」という目標地に向けてひたすら進み、途中で食料を調達したり、食堂で好物のカツ丼やお蕎麦を食べたりしながら、できるだけ計画から大きく外れないように前進していきます。体のケアも行います。

ときには現地で得た情報を取り入れてルートや航路を変更するなど、フレキシブルな判断も必要となります。

旅を通して、変化したもの


田中氏は、この挑戦に対して「自分自身を成長させるため」という意味づけをしました。

このチャレンジについて数人の友人に話したとき、さまざまな質問がなされ、その中で一番「なぜやるの?」という問いが響いたからだといいます。

大きなリスクを負ってまで自分が挑戦する意味は何なのか…。それを突き詰めていったとき、「自分を成長させること」という目標が見えてきました。

旅の途中ではおそらく、その目標について考えることよりも、目の前の困難に立ち向かうこと、安全に進むことに意識は集中していたでしょう。

しかし旅を振り返りながら記した本書では、田中氏が少しずつ変わっていくのがわかります。

何気ない風景の中の気づき


オフィスで有効な方法も取り上げられています。

日記のように日々の出来事が綴られているのですが、興味深いのは、何気ない事象にも心を留めているところです。

たとえば、しまなみ街道を渡るシーン。7つの橋を渡るのですが、激しい雨と蓄積した疲労のため、来島海峡大橋のたもとで足止めとなります。サイクルターミナルの屋根の下で寝袋にくるまりながら寝ることに。その夜には、疲れと悪天から、闇へと続く不気味な橋に見えた来島海峡大橋でしたが、晴れ渡った翌朝に見てみたら、明るい未来への橋に見えました。

「天気ひとつで人が感じる印象がここまで違うのかと、自分のことながら驚いた」という記述が印象的です。

また旅の途中、ふと、田舎道で会う人すべてに挨拶をしてみたところ、当たり前のように「こんにちは」と返ってきました。ところが、住宅が増えるにつれて、次第に挨拶を返してもらえなくなり、いつしか誰も挨拶をしてくれなくなります。

「挨拶がなくなる辺りが、田舎と都会の境界線なんじゃないかと思ったりした」と、語っています。

反響と葛藤


旅の当初は、偶然に出会った人の好意で家や宿に泊めてもらったりしていましたが、旅をまとめた映像がテレビで放映されると、旅自体が広く知れ渡るようになり、行く先々で応援者が待ち受けていて、「何時間も待っていた」「遅かった」などと言われるようになります。

そうした応援は嬉しく、励みになる一方で、ときには胸に突き刺さる言葉もあったのだとか。「何のために挑戦しているのだろうか」という葛藤も生まれたといいます。

また荒天の中、長時間、待ち続けている応援者に対して申し訳なく思い、自分が進むことで、こうした状況を生み出していることに苦悶したとも記されています。

その後、2015年には「日本二百名山ひと筆書き」も成し遂げた田中氏。先頃書籍が発売された2つのめの旅の記録も、ぜひ読んでみたいと思いました。

(編集部:Y.C)