コラム | COLUMN
「プレイス・ブランディング 〜場所をつくる仕事」若林宏保・徳

「気になる本はたくさんあるけれど、忙しくて、ついつい読まずに終わってしまう…」。そんなビジネスパーソンのために、仕事に役立ちそうな本、これからの人生をより豊かにしてくれそうな本を編集部がピックアップ。内容を“美味しいとこ取り”でご紹介します。今回はこちら…

ちょっと立ち読み〜ビジネスに強くなる本 第85回

「プレイス・ブランディング 〜場所をつくる仕事」
若林宏保・徳山美津恵・長尾雅信 著

有斐閣 / 2,200円 税別

2019-1-7

人を魅了する「プレイス」はどのようにして生まれるのか? 事例研究と地理学の場所理論によって読み解く。

「産品」ではなく、「場所そのもの」の価値


最近、日本で注目されている地域ブランディング。海外では「プレイス・ブランディング」として、近年とくに注目を集めている分野です。

日本との大きな違いは、地域の「産品」ではなく「場所そのもの」に価値を見いだしている点です。

本書では、そんなプレイス・ブランディングの理論について、国内外の事例紹介とともに説明しています。

3つの要素で構成されるプレイス


はじめに、プレイス論についての学術的視点が記されています。

「プレイス」という概念は、1970年代に人文地理学から派生した人文主義地理学の分野で、さかんに議論されるようになりました。

人文地理学者のアグニューは、プレイスを3つの要素からなる構造と捉えています。

  1)ローカル
  2)ロケーション
  3)センス・オブ・プレイス

3つめの「センス・オブ・プレイス」は地域感情の構造を示しています。英語でセンスとは、

  ① 意義、価値、合理性
  ② 感覚、概念、認識
  ③ センス、勘、判断能力
  ④ 感情、感じ、気持ち

といった意味があります。

①・②はやや理性的意味合いを持ち、③・④が感覚的な意味を持っています。

このことから「センス・オブ・プレイス」の「センス」には、美しさを見分けられるように目が鍛えられているという意味と、美しいプレイスをつくっていくという、2つの意味があると言われています。

クラフトムーブメントの舞台、ポートランド


プレイス・ブランディングの具体的な事例として挙げられているのは、アメリカ・オレゴン州のポートランド、瀬戸内、越後、南アルプスです。

ポートランドは近年「住みたい街」として若者に人気の街。若い起業家や女性起業家の割合が全米で最も高く、クリエイティビティとエネルギーに溢れた街として知られています。

1851年に市として誕生したポートランドは農産物や材木の輸出中継地として栄えました。しかし、急速な発展によるインフラ整備により木々が切り倒され、街の至るところに切り株が放置されていたことから「スタンプ・タウン」と揶揄されていたといいます。

その後、1970年代に西海外のヒッピーたちがこぞってオレゴン州に移住し、ポートランドではリベラルなライフスタイルやDIY精神などが開花していきました。そこから現在に至るまで、街がどのように移り変わってきたのか詳しく紹介されています。

風土と文化創成


瀬戸内海では現代アートとサイクリング文化を切り口に、県や市町村といった境を越えた「瀬戸内ブランド」の醸成が進んでいます。

越後では、酒造メーカーが地域風土を活かして伝統和紙と取り組んだ新たなビジネスの創成が、廃絶しそうな和紙の原料の買い支えにまで発展。さらなる広がりを見せています。

そして、南アルプスでは「水の山」としてのストーリーがさまざまな形で展開されています。

いずれの事例も、土地の風土や場所そのものの特性にフォーカスしたブランディングが印象的です。

地方の魅力の再発見や積極的な情報発信が求められるいま、物産だけに頼らない新たな視点が必要であることを本書は説いています。

(編集部)