コラム | COLUMN
「教養としてのテクノロジー AI、仮想通貨、ブロックチェーン

「気になる本はたくさんあるけれど、忙しくて、ついつい読まずに終わってしまう…」。そんなビジネスパーソンのために、仕事に役立ちそうな本、これからの人生をより豊かにしてくれそうな本を編集部がピックアップ。内容を“美味しいとこ取り”でご紹介します。今回はこちら…

ちょっと立ち読み〜ビジネスに強くなる本 第78回

「教養としてのテクノロジー AI、仮想通貨、ブロックチェーン」
伊藤穣一 著

NHK出版新書 / 780円 税別

2018-06-04

テクノロジーは未来をどう変えていくのか。「経済」「社会」「日本」という3つの視点から読み解く。

テクノロジーにおけるシンギュラリティとは


2011年からマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務める伊藤穣一氏は、長い間、テクノロジーの最前線を見てきました。

本書ではAI、仮想通貨、ブロックチェーン、教育などを取り上げつつ、2020年の東京オリンピック、パラリンピックを契機に、日本はどう変わっていくべきかについて言及しています。

第1章「AIは労働をどう変えるのか?」では、シリコンバレーについて書かれています。

投資家として、アメリカのシリコンバレーのIT企業をたくさん見てきた伊藤氏。

伊藤氏は、シリコンバレーの思考について「スケール・イズ・エブリシング」だといいます。その一方で「シンギュラリティ(技術的特異点)」という独特な考え方も浸透しています。これは、アメリカの未来学者であるレイ・カーツワイルが提唱した概念で、人口知能が人類の知能を越える転換点を指しています。

シリコンバレーではこの考え方に傾倒する人が増えていて、コンピューターが人間の知能を超えて無限に賢くなったとき、自分たちはどうすべきかについて真剣に考えています。

こうした傾向は、「テクノロジー・イズ・エブリシング」を意味しているともいえます。

シンギュラリティについては、信じる人と信じない人に大きく分かれますが、過去を振り返ってみると「コンピューターにそんなことができるわけがない」と批判されていたことの多くが実現されてきたこともあり、シリコンバレーでのこうした流れも頷ける部分があります。

「働く」ことに対する価値観の変化


では、どうしたらいいのでしょうか。

AIの技術はあらゆるサービスのインフラとして、すでに実用化の域に達しつつあります。たとえば、ディープランニングによる音声認識機能の飛躍的な向上により、「YouTube」では毎日10億本の映像に字幕が付けられています。

今後さまざまな分野で、企業にとっては労働が効率化されていくでしょう。そうなったとき、「働く」ことについて、新たな概念が生まれるのではと著者はいいます。学問やボランティア、宗教、子育てなどをみればわかるように、本来、「働く=お金」という価値観だけではないからです。

テクノロジーが社会を変えつつある現状をふまえ、話題となっているのが「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」です。これは、すべての国民に政府が生活費として一定額を支給する制度です。

2017年からアメリカのサンフランシスコでも実験が始まっているそうです。フィンランドでも失業者2000人に対して支給を始めるなど、試験的な運用を始める動きが世界で広まっています。

進化するテクノロジーが生み出す課題


第4章は「人間はどう変わるか?」。

人工知能や人間拡張のテクノロジーが発展することで、今後、人間の果たす役割や意味も変わっていくかもしれません。

進化しすぎたテクノロジーは、人間の存在そのものを圧迫するかもしれないという危険性を同時に有しています。

いま最も必要とされているのは、正しい「倫理」の設定です。

新しい倫理や美学を探る議論が必要


伊藤氏は、「パラリンピックがいつの日か、オリンピックを超える競技になる」ことを想像しているといいます。

かつて義足は、何らかの理由で失われた足の代わりにつけるものでした。身体の一部を補うために存在していたというのが、いままでの常識です。

しかし、科学技術の進歩により、人間が持つ足よりも能力が高い義足が登場し、その義足を身につけた選手は人間の足で走るスピードを上回ることができるようになっています。伊藤氏は「人間が拡張の方向に大いに進んでいくだろう」と予想しています。

バイオテクノロジー、人口知能、ゲノム編集など、さらなるテクノロジーの進歩によって、この先「拡張することの倫理的な是非」が問われるようになります。新しい倫理や美学を探ることが必要であり、議論が求められるようになるでしょう。

いま世界的な話題となっている「自動運転車」においても、同じことがいえます。すでに実際に「自動運転車」を活用している伊藤氏は、今後、大きく問われるであろう「倫理」について具体的な内容を記しています。

テクノロジーを切り口に、いまと未来、都市のゆくえ、そして2020年以降の日本についても考察した興味深い一冊です。

(編集部)