コラム | COLUMN
教養は児童書で学べ

「気になる本はたくさんあるけれど、忙しくて、ついつい読まずに終わってしまう…」。そんなビジネスパーソンのために、仕事に役立ちそうな本、これからの人生をより豊かにしてくれそうな本を編集部がピックアップ。内容を“美味しいとこ取り”でご紹介します。今回はこちら…

ちょっと立ち読み〜ビジネスに強くなる本 第73回NEW

「教養は児童書で学べ」
出口治明 著

光文社新書 / 840円 税別

2017-01-09

大切なことはすべて児童書が教えてくれた……。社会のルールや人の心の機微など、専門書以上にビジネスで必要な教養が学べる児童書案内。

この世にあるのは「いい本」と「そうでない本」だけ


読書家として有名なライフネット生命創業者の出口治明氏が、大人にこそ読んで欲しい選りすぐりの児童書を紹介する本です。

児童書というと子ども向けと考えがちですが、そこに描かれている世界は決して子どもだけに向けたものではありません。大人の心にも響く示唆に富んだエピソードがたくさん登場します。

ジャンルを問わず週に3〜4冊の本を読むという出口氏。伝記や小説、歴史書や学術書を中心に、漫画や児童書もよく読むといいます。

そんな出口氏は、本はジャンルによって優劣をつけるものではないと力説します。「単にいい本とそうでない本があるだけ」だと。

本書に登場する10冊の児童書は、まさに「いい本」。時を超えて読み継がれてきた、あるいは読み継がれるであろう良書がリストアップされています。

あおむしの成長から学ぶこと


最初に登場するのはエリック・カール著「はらぺこあおむし」。実際に読んだことがなくても、本屋さんで目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。美しい緑色の「あおむし」が描かれた表紙が印象的です。

この絵本は色がとても綺麗なのですが、この色彩の美しさには理由があると出口氏は記しています。

戦争中に幼少期を過ごした作者は、くすんだ色彩の中で育ちました。そして戦後に通った美術学校で色の楽しさに出会います。そこから作者は、色の持つ力をかぎりなく高めたいと、大胆な色を駆使することに情熱とエネルギーを注いだそうです。

「はらぺこあおむし」では、はっぱの上にあるあおむしの卵から物語が始まります。卵からかえったあおむしは、月曜日にりんごを1個食べ、火曜日になしを2つ、水曜日にすももを3つ、木曜日にいちごを4つ、金曜日にオレンジを5つ食べます。

土曜日にはチョコレートケーキやアイスクリーム、チーズ、ソーセージ、さくらんぼパイなどの美味しそうな食べ物がたくさん並び、それらを全部食べてしまったあおむしはお腹を壊してしまいます。子どもたちは、たくさん食べ過ぎるとお腹がいたくなることをここで知るわけです。

そして日曜日にあおむしは葉っぱを食べて元気になります。葉っぱは人間にとって野菜。好きなものだけを食べるのはよくないことを表現しています。お腹いっぱいになったあおむしはさなぎになり、最後にはきれいな蝶になります。

絵本を通して子どもたちは、時間の流れや夜と昼、曜日、数字、食べることの大切さ、ものごとは変化していくことを学びます。少ないページ数の中に森羅万象が描かれています。

「アンデルセン童話」が読み継がれている理由


遊牧民であるアラブの社会を知ることが出来る本として、「アラビアン・ナイト」が紹介されています。

農耕民族である日本人にとって、アラブの社会は全く異質なもの。そのアラブがかつてはヨーロッパを介して世界に大きな影響を与えたことを理解しつつ本書を読むと、非常に面白いと出口氏は述べています。

続いて登場するのは「アンデルセン童話集」。

「グリム童話」と並んで、古くから子どもたちに親しまれてきた童話集ですが、とくに「アンデルセン童話」は誰もがストーリーや登場人物を覚えています。「みにくいあひるの子」「はだかの王様」と聞けば、ほとんどの人がその物語を思い起こすことが出来ます。

「アンデルセン童話集」は決して明るい話ばかりではなく、なかには悲惨な物語も登場します。

たとえば、「マッチ売りの少女」は大晦日に貧しい少女が一人死んでいく悲しいお話ですが、それでも読んだ後には不思議な清々しさが残ります。この物語によって「人間の心情の一番美しいところを子どもたちに示すことができる」と出口氏はいいます。

また、「人魚姫」では理不尽な世界が描かれていますが、物語を構成する要素に不純物がないために、読み手である私たちはピュアな気持ちでそれを咀嚼することが出来ます。

著者の人物像や物語の背景も味わえる


そのほか、「西遊記」「さかさ町」「エルマーのぼうけん」「ギルガメッシュ王ものがたり」「せいめいのれきし」「モモ」「ナルニア国物語」が登場します。

すべての章でその本が描かれた社会的背景や作者の生い立ち、性格などが紹介され、それぞれの物語に奥行きを与えています。

物語そのものの魅力に出口氏の視点が重なり、とても学びの多い読書案内。多くの方におすすめしたい一冊です。

(編集部)