コラム | COLUMN

「気になる本はたくさんあるけれど、忙しくて、ついつい読まずに終わってしまう…」。そんなビジネスパーソンのために、仕事に役立ちそうな本、これからの人生をより豊かにしてくれそうな本を編集部がピックアップ。内容を“美味しいとこ取り”でご紹介します。今回はこちら…

ちょっと立ち読み〜ビジネスに強くなる本 第14回

「決断する力」
猪瀬直樹 著

PHPビジネス新書/840円

2013-02-04

東京都知事の猪瀬直樹氏が副知事時代に記した本。東日本大震災におけるSNSの活躍、“昨日のルール”にとらわれない思考法、首都東京の未来について語っています。

災害時に必要なのはスピード感


最近、東京都庁のさまざまな部署がツイッターの公式アカウントを持ち始めたのをご存じですか? 1月に都内で大雪が降った際にも、広報課や交通局、東京消防庁などが、地下鉄やバスの運行状況、雪道における注意点などを発信していました。こういった活動のきっかけとなったのは、東日本大震災だといいます。

地震発生後、東北の被災県や関東などでは携帯電話や固定電話が繋がらなくなり、救助要請ができなかったり、家族と連絡がとれなかったり、災害の情報が得られたなかったりといった状態が続きました。

そんな中、ある一つのツイートによって400名が救助される救出劇が起こります。巨大な津波に飲み込まれ、火災に見舞われた宮城県気仙沼市。障害児童施設・気仙沼マザーズホーム園長の内海直子さんは、中央公民館の屋上に児童を含めた多くの人々とともに取り残されていました。唯一の連絡手段であった携帯メールで「火の海 ダメかも がんばる」とイギリス在住の息子さんに送信します。それを受け取った息子さんがツイッターで拡散を希望しながら、この状況を伝え、空からの救助を求めました。

ツイートはまたたく間にリツイートされ、巡り巡って猪瀬氏のもとに届きます。都内の災害状況をツイッターで確認していた猪瀬氏は、これを見つけるとすぐに東京消防庁幹部に連絡。テレビの映像により、気仙沼市の消防署も被災していて壊滅状態であることを想像し、地元からの出動要請がないにも関わらず、東京からヘリコプターを急行させました。

地震直後にもサーバーが落ちなかったツイーターは、これ以外にも大きな威力を発揮しました。JRが止まり、地下鉄や私鉄の運行もままならない都内では、帰宅困難者による混乱が起こっていました。東京都のホームページで避難場所の情報を提供しましたが、アクセスが集中してすぐにダウン。当時、広報課はツイッターアカウントを持っていませんでしたので、フォロワーの多い猪瀬氏が代わりにその役割を担い、各局から上がってくる交通情報、帰宅困難者にむけた学校やホールなど公共施設の開放状況、火災情報などを次々にツイートしていきます。ツイッターはフェイスブックとも連動していましたので、さらに情報は拡がっていきました。

この時に意識したのは、情報の流れを滞らせないことだったとか。なぜなら、一刻も早く情報を欲しいと思っている人が大勢いたからです。災害や事故発生時には事態は刻々と変化していきますから、まずは限られた情報をもとに発信し、変化がある度に修正を加えていきました。また、根拠のある情報であることを伝えるため、ツイートの冒頭には「港湾局報告~」「東京消防庁報告~」など出所を明記しました。

首都東京の公務員であるということ


石原前都知事は「東京都の職員はただの地方公務員ではない、首都公務員だ」という方針を持ち、他の自治体を助けるのも東京都の使命と考えていました。

2007年に財政破綻した北海道夕張市への支援「夕張支援プロジェクト」もそのひとつ。業務が滞っていた市役所へまず2名を長期派遣し、加えて一週間に数名ずつ派遣していきました。最初の赴任者である鈴木直道さんは、2011年4月に夕張市長選挙で当選し、全国最年少の30歳で市長になっています。東京都は若い鈴木市長を支えるべく、ベテラン2名を派遣。現在も、都内での物産展の開催や債権管理マニュアルの提供といった支援策に取り組んでいます。

震災直後には、千葉県浦安市への援助も行いました。浦安市では海沿いの広い範囲で液状化が起こり、上下水道がストップしてしまいました。災害用の貯水槽も液状化で使えない状況です。浦安市からSOSを受けた東京都は、すぐに水道局と下水道局を派遣し、応急の水道ケーブルや下水道ケーブルを地表に這わせて、各家庭のライフラインを復旧します。液状化でずれた下水道管に砂がたまっていたことから、テレビカメラ付きロボットを下水管に入れて不通の箇所を特定。約40kmを清掃し、一ヶ月後には市内全域でトイレが使用できるまでに回復させました。

未来に向けたとりくみ


東京都は将来の人口減少を見越して、守るだけではない“攻めのリスク管理”も推進しています。その一例が、水道事業です。日本の質の高い水道インフラ技術を、新興国に売り込むという活動。すでにフランスやイギリスでは、民間企業が水道事業をマネジメントし、巨大産業に成長させています。東京の水道技術は江戸時代までさかのぼれるほど歴史あるもの。現在では、質の高い浄水システムにより美味しい水を実現しているだけでなく、時間ごとの使用量を予測したコンピューターによる水量の制御、高い漏水発見技術なども有しています。これらをもとに近々、ベトナム・ハノイ市での水道事業への参画が決まっています。

また、かねてから実現を目指していた都営地下鉄と東京メトロの一元化、「地産地消」のエネルギー確保に向けて、100万キロワット級の天然ガス発電所の建設プロジェクトも進んでいます。

知らなかった東京の一面に出会えるこの本。首都東京の役割について改めて考えさせられるとともに、「がんばれ、東京!」と何やら応援したい気持ちにもなりました。2020年のオリンピック誘致にも期待したいと思います。

最後に、2012年2月東京マラソンに初挑戦し、完走を果たした直後の猪瀬氏の素晴らしいツイートをご紹介します。 「走り出して1年半ですが東京マラソン完走できました。昨年の元旦に初めて10km走った。今年元旦は20km走った。42kmは僕の走りの経験の2倍以上の未知の領域。でも毎日2kmから3km走ってその距離が通算1000kmを超えていた。『決断する力』とはこうした日常の意志の力の集積に加え冒険心。」(本書まえがきより引用)

(編集部:Y.C)