コラム | COLUMN

「気になる本はたくさんあるけれど、忙しくて、ついつい読まずに終わってしまう…」。そんなビジネスパーソンのために、仕事に役立ちそうな本、これからの人生をより豊かにしてくれそうな本を編集部がピックアップ。内容を“美味しいとこ取り”でご紹介します。今回はこちら…

ちょっと立ち読み〜ビジネスに強くなる本 第9回

「少しだけ、無理をして生きる」
城山三郎 著

新潮文庫/452円

2012-09-03

著者が小説の題材とした広田弘毅や渋沢栄一のほか、歴史上の人物や、これまで出会った魅力ある人々について考察した一冊。 リーダーとはどうあるべきか、人はどう生きていったらよいのか、深く考えさせられます。

初心が魅力をつくる


仕事に対してだけでなく、生きていく姿勢としての初心、初々しさというのは、いくつになっても大事だと、城山氏はいいます。 自分に安住せず、自分を無にして人から受信し、吸収しながら生きること。
例えば渋沢栄一は、会う人すべてに心を傾け、同じ態度で対応しました。 就職を頼みにきた学生、社会運動の募金を頼みにきた女性、何でもない用事で来た人にも…。
この姿勢を生涯貫き通した、つまり、全身が受信機だったわけです。 これこそが、明治のはじめにおいて、武家の生まれではない農村出身の一人の少年を、日本最大の経済人にした秘密だと分析しています。

自分の時間をもつ


伊達政宗は書や能、歌や茶の湯に精通していました。
藩主は普通、朝起きると家来が髪をすいたり、身の回りの支度をしてくれるものですが、彼は自分でやります。 そして「閑所(かんじょ)」と称する、たった二畳の本棚があるだけの部屋に入って、本を読み、歌をつくりました。時には二時間くらい、一人で過ごしたといいます。 その後、表へ出て政務を行い、一日の終わりにはまた閑所へ戻って、再び書を書いたり考え事をしたりしました。
東のリーダーである伊達政宗と同じく、西のリーダーであった毛利元就も、歌集を残すほど和歌をたくさんつくっています。 戦の時代、優れたリーダーは自分だけの世界を持っていたわけです。
広田弘毅や渋沢栄一も、その点が共通しています。
歴史上の人物を見ると、多忙なトップこそ自分だけの世界をしっかりと持っている。 みんなの前に出る時の顔ではない、一人で過ごす時の顔がある。 「無所属の時間」を持つことこそが、その人の強さや深さをつくる、自らを耕す時間になるわけです。

少しだけ、無理をして生きる


城山氏が作家として歩き始めた時、大学の先輩である伊藤整という作家が、アドバイスをくれました。 「これから先、プロとしてやっていくのだから、いつも自分を少しだけ無理な状態の中に置くようにしなさい」。
少しだけ無理…というところが、ポイントです。 アイデアやインスピレーションが自然に湧いたから小説を書くのではなく、インスピレーションを生み出す努力をしなければならない、ということ。
自然な状態で待っていてはダメで、自分に負荷をかけるというか、少しだけ無理をしなくてはいけない。 大変な無理では続きませんから、少しだけでいい。 これはあらゆる仕事に通じる言葉といえそうです。 自分を壊すほど無理をするのではなく、少しだけ無理をすることで、やがて大きな実りがもたらされる。 知らず知らずのうちに、元の自分では考えられないほど、遠くまで行けるかもしれません。自分の世界が、思わぬ広がりと深さを見せるかもしれないということです。

人間を支える3つの柱


アメリカの精神心理学には、「人間を支える柱は3つある」という考え方があります。その3つとは、セルフ = self、インティマシー = intimacy、アチーブメント = achievementです。
1.セルフは「自分だけの世界」ということ。本を読んだり、音楽を聞いたり、絵を見たり描いたり、坐禅をしたり。個人だけで完結する世界です。
2.インティマシーは親近性という意味で、親しい人たち、家族や友人、地域の仲間たちとの関係性を指しています。
3.アチーブメントは達成。仕事でも趣味でも、目標を立てて、それに向かって挑んでいく力です。
学説によれば、民族や人種によって差があるそうで、セルフの世界が強いのがイギリス人。確かに、バードウォッチングやガーデニングなど、個人の時間を大切にする人が多いような気がします。 インティマシーの世界が強いのはアメリカ人。家族関係をとても大事にし、その関係の悪化がストレス要因の上位を占めるそうです。
そしてアチーブメントが強いのが、日本人です。 どんなことに対しても、目標や段階を設定して進んでいくのが上手いのです。
3本の柱をバランスよく、太く充実させておけば、万が一、ひとつが揺らいでもあとの2本が支えてくれる。 「人間の強さ」が生まれてきます。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魅力ある人物の資質のひとつに、「人間への尽きせぬ興味」が挙げられていました。
経済小説家である城山氏は、時代を切り開いた政治家や、高度経済成長期に日本を牽引した起業家など、多くの人物と懇意でしたが、それらのリーダーに共通しているのが「人間への興味の深さ」だったといいます。そこに、情熱の源があったわけです。
はたして自分はどうだろうか。
もちろん、時代を切り開くリーダーとはほど遠いですが、それでも日常において、「3本の柱」しかり、省みなければならないことがたくさんありそうです。
(編集部 Y.C)